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 イタリアに足を運びはじめて足かけ11年。初めはイタリアについて全く無知だったが、少しは言葉も覚え町の景色にも馴れてきた。しかしこの間私は冬しか行ったことがない。夏のイタリアは知らない。今回は初めての夏のイタリア旅行になる。今回はエルメネジルドゼニア社が日本の有力テーラー・オーダー店を招いた旅行に参加した。エルメネジルドゼニアは織物工場からはじまった会社で 既製服など最終製品がゼニアの売上の多くを占めている現在でも ゼニアの服地を扱うオーダー店・テーラーをとても重要視している。今回の招きはその一環だ。

6/19

 中部国際空港を発ちフランクフルトを経て、ミラノマルペンサ空港に向かう。ミラノ行きの飛行機に乗ると言葉がイタリア語になるのが当たり前だがうれしい。ホテルに着いてすぐ休む。

6/20
 朝早くホテルを発ち、パルマ近くのメンズスーツの縫製工場MA.C.O.に向かう。ここは腕利きのテーラー、ラッファエル・カルーゾ氏が一代で大きくした工場だ。

 300名以上在籍する大きな工場だが、オートメーションでラインを服がながれてどんどん出来るわけではない。細かい工程に別れパート、パートごとの縫製のスペシャリストが自社で発注した特殊なミシンを使い美しく仕上げていく。毛芯も服の仕様に合わせて自作してプレスで立体的に仕上げている。スーツが出来上がるまでの工程中になんどもプレスをすると立体的になると言われている。ここは毛芯の段階からプレス工程が始まっている。現代高級スーツ縫製の重要な要素として中間プレスがあるのだ。工程の数が多いほど手作業の味がでるいい服になるがMA.CO社工場は本当に多くの工程がある。自社ブランドだけでなくディオールをはじめ有名クチュールのスーツの縫製も手がけている。

 創始者のカルーゾ氏も今だ現役の縫製指導者でひとりひとりの従業員がカルーゾ氏をとても尊敬しているのがよく分かる。服を作るよろこびを従業員と「共有」するというイタリア的幸福な労使関係がここでも見ることができた。(他社のはなしだが社員全員社長を尊敬し、かつファッションリーダーとして社長の着こなしを社員が熱く注目している光景を私は目撃したことがある。)カルーゾ氏はわれわれ日本のオーダー関係者にも親切に技術の解説を熱心にしてくれた。われわれ洋服を扱う人間はスーツを触るときに独特な手つきがあるらしいのだ。そのようにスーツをさわるわれわれをプロとして扱ってくれた。人間的にもすばらしい方だ。 できあがったMA.C.Oの服はオードックスな作りながらとても柔らかい軽い着心地だった。

 パルマでは外の気温は37度を超えていた。2年前フランスを襲った熱波がどうやらイタリアに来たらしい。すこし外に出るだけで汗がにじんでくる。冷えたペットボトルの水が本当にありがたい。 その夕べは織物の町、ビエラに移動。ホテルは山の近くで過ごしやすかった。


従業員を指導するラファエルカルーゾ氏 毛芯の段階から中間プレスがはじまる。(縫製の中間でプレスをして立体的に仕上げる。) ミシン工程のあとのハンド工程

6/21
 ホテルから織物のまちビエラを通りトリヴェロのエルメネジルドゼニア本社に向かう。わたしは9年前この地に妻と二人で訪れた事がある。またわたしがまだ10代のころ兼高かおる世界の旅という日曜の朝やっていた番組でこの工場のこと紹介したのを見た覚えがあるのだ。いちど番組のアーカイブがあれば放送日なども知りたいものだ。

 工場と言うと普通、平地にあることを想像するのだが、緑多い小高い山をどんどん上って行きその中腹に工場がある。かなり規模がおおきいのに珍しいと思う。山の上に城郭都市を造るのはローマ人ではなくエトルリア人。ゼニアにもその精神が宿っているかも。中は貴族趣味の邸宅と清潔な工場が併設されている。庭はすばらしいイタリア式庭園だ。庭園に面したエントランスホールに古代から近代へ毛織物産業がどうやって変遷したかという説話風の巨大な油絵が何枚も続いて飾られている。窓から入る柔らかな光がとても美しい部屋で、スタッフの紹介とゼニア社の現況についてのレクチャーが行われた。


ゼニア工場正面。 山の中腹に美しい工場が位置する。 イタリア式庭園
ゼニア工場正面。エルメネジルドゼニアと息子達の織物工場と記す。 山の中腹に美しい工場が位置する。 工場内のイタリア式庭園

 ラニフィーチョ(毛織物工場)ゼニアの中に入る。オーストラリアの現地で最高のメリノ糸を買い付け、糸を紡ぐ紡績から織り、フィニッシングまで一貫生産。私どもの店で扱うエルメネジルドゼニア、ロロピアーナはともに一貫生産の織物工場。イタリアの一貫生産は自分たちの意図する織物を意図した通りに作りたいという精神の現れ。他社が作った糸を買って織り上げたのでは思い通りの服地を作る事ができないということ。この精神が服地に宿るのでゼニアの服地で作ったスーツの着心地がすばらしいのだ。

 糸を紡ぐ工程ではゼニアお得意のハイパフォーマンスの糸も作られていた。ゼニアはハイパフォーマンス、トラベラー、ソルテックスなど紡績方法に特徴のある服地が多い。巨大な機械で織り機に糸をセッティングする工程の整経のプロセスの後、織りの工程がある。何十台もの織機から服地の耳に「Ermenegild Zegna}の文字を刻んだゼニアの服地がどんどん出来て行くのは感動的。(上の大きい写真参照)世界ではじめて服地の耳にネームを織り込んだのもゼニアが初めてだそうだ。


工場内紡績工程 工場内染色工場 検反工程。人の目で丁寧に調べ補修する。
工場内紡績工程 工場内染色工場、危険の文字が。 検反工程。人の目で丁寧に調べ補修する。

 検反という人手によるチェックを経て、フィニッシングへ。織り上がってすぐの服地はすばらしいウールを使っていてもまるで麻100%のようにガサガサ。それをフィニッシング(整理)という工程を通ってはじめてすばらしい触り心地の服地になる。この工程はイタリア製の巨大な機械が服地を洗ったり、蒸したり、プレスしたりしている。見た目も派手な工程だ。そして重要なのは工程ごとに糸、服地を休ませるエイジングというプロセスがあること。すこしでも早く作った方が能率的だがこの工程があるためにしっくりなじんだ服地はテーラーに作りやすく、客に着やすい服地に育って行く。

 工場の中を見た後、服地をデザインするセクションを見学。ゼニアに限らず毛織物会社はほとんどおなじなのだが、デザイン部は工場のなかの一番光があふれる明るい部屋が当てられる。正しい色、美しい柄を選ぶ事が服地を作る会社の使命だから。ゼニアは窓一面ガラスで緑の山から明るい光が差し込む部屋がそれ。そこでわたしたちは VELLUS AUREUMという世界最高レベル(スーパー190s)のエクストラファインウールをを一mあたり290gの目付で織った美しい服地を見る。ゼニアが顧客ひとりひとりの為に耳に顧客の名前をいれ織り上げた服地。原毛は生産量のきわめて少ないエキストラファインウールをさらに選りすぐったもの。シューマッハ、日本の俳優Watanabe(ラストサムライ?)などからも受注したらしい。怖くて値段は聞けなかった。

 食事のあとオアジゼニアに向かう。ゼニアは工場だけではなくその一体、スキー場も所有している。ゼニアの工場は山の中腹に位置するがそれから車はどんどん山を登り、木々の間からかいま見る下界の景色はだんだんすばらしくなって、さらにのぼると景色のすばらしいところに出てきた。そこから見るゼニア一帯の景色、遠くにかすむビエラの街の景色をパノラミカゼニアというらしい。そして山の頂上にはリフトが何台もあるスキー場があった。ゼニアの工場から山頂にかけての一体のことをオアジゼニア(ゼニアのオアシス)と呼ばれている。ゼニアの工場はわき水も利用して美しい服地を生産している。そのわき水は上の山からの雪解け水や木々の根が保った水だ。織物生産に重要な水を源から自社所有して大切にしているということ。

 ゼニアの織物がオートメーションで出来る「工業製品」ではなく、羊と言う動物、そして空気、水というとりまく環境からできている「工芸製品」だと感じた一日だった。

 ゼニアを出て6時間高速を走り宿泊予定フィレンツエ近くの工業都市プラートについたのは深夜だった。

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VELLUS AUREUM ゼニア織物デザインルーム オアジゼニア
VELLUS AUREUM。耳に個人の名前が読める。 光にあふれるゼニア織物デザインルーム 工場の上、オアジゼニア内のスキー場

 

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