昨日マドリードは起きたら暗い空に雪が舞う朝、我々は今回の旅の目的の場所エスコリアル修道院に行く準備をしていました。

我々オーダーいただくスーツのほとんどはメリノウール使っています。ロロピアーナ、エルメネジルドゼニア、ドーメル、VBCの素材で出来たスーツはなめらかで手触りがよくツヤも美しい。それはメリノ種の羊が産み出したエキストラファインウールを使っているから。

普通の羊はわかりやすく言うとハリスツイードのように粗野でざっくりした羊毛です。メリノ種のみがあの滑らか感があるのです。

メリノ種の細い羊毛を洗って余分な脂を落としてから、糸の表面の毛羽を徹底的に落としツルツルの糸にして目を詰めて織ります。できた織物はまだガサガサですが、それをまた洗ったり熱でプレスしたり加工し尽くしてあの滑らかさが実現します。

そのメリノの源流がスペインマドリードの郊外にあるエスコリアル修道院。

エルエスコリアル
雪舞うエル エスコリアル

メリノウールは中世スペインで完成した極めて細質な羊毛で、王権はこれを国家戦略資源として厳重に保護しました。

フェリペ2世の時代、エスコリアル修道院は王宮・修道院・行政の中枢として、王室牧場や品質管理、血統維持を支える象徴的拠点でした。しかし17世紀以降、度重なる戦争と財政破綻により国家管理は弱体化します。18世紀には独占維持を断念し、同盟強化のため王家間の贈答としてメリノ羊がフランスやドイツへ公式に渡されました。

さらに産業革命により他国が改良と加工で優位に立ち、19世紀にはオーストラリアへ拡散します。こうしてメリノは、保護の中心だったエスコリアルから、王権の判断と時代の変化によって世界へ広がっていきました。

マドリード市内からクルマで荒れた丘陵地を走ること40分、その小さな街にエスコリアル修道院があります。

雪がそぼ降る中グレーに煙った石造りの巨大建造物がそのイルエスコリアル。小さなカフェを見つけ開場時間を待ってその建物に入ります。

中は石造りであくまで直線的な建築構成でその中心に巨大な中庭があり、ここで修道士達が流出を厳格に禁じられた羊を育てていたのかもしれません。

エルエスコリアルの巨大な中庭

まず壮麗な図書館に入ります。ここでスペイン王国の世界観を紡ぎ出されたのでしょう。

世界観を紡いだエスコリアルの図書館
エスコリアルでやっと見つけた羊
エスコリアルの礼拝堂

そして内部の礼拝堂を見てまわります。その中でグレコを一枚、ヒエロニムスボッシュの絵を一枚見つけます。それからハプスブルク家ブルボン王朝と続いたスペイン王家の墓所を陰鬱な気分になりながら見学。羊毛についての痕跡をくまなく探しましたが見つけることはできませんでした。現在エスコリアル修道院に羊毛育成の痕跡が見られないのは、ここが生産現場ではなく国家統治と管理の象徴的拠点だったためなんでしょう。王室牧場や放牧地は周辺地域に分散して存在し、近代以降は修道院が宗教・歴史建築として保存され、羊毛保護の痕跡は消失していったのかもしれません。

エスコリアルで見つけたエルグレコ
エスコリアルで見つけたヒエロニムスボッシュ

エスコリアルの周囲は田畑は見つからず、荒れた灌木が草が茂る丘陵地が続きます。そんな大地に200年前は修道士がたくさんのメリノ羊を引き連れていたのを想像した雪の日でした。

タペストリーで囲まれた王家の部屋