洋服屋として洋服の着こなしをたずねらることがある。そんなとき僭越ながらおすすめするのがポケットチーフ。かって洋服のジャケットの胸ポケットは持ち物をいれるために作られたはずだが、いまではそれはポケットチーフを挿す以外に利用の途はない。ジャケットのVゾーンはジャケットそのものとシャツとネクタイの三者によってなりたっているがその脇にポケットチーフが存在するだけで色のコーディネートに深みがでてくるのがふしぎ。枯れた器に盛られた小芋の上に柚子が一片のっているだけでその一品がミクロコスモスにも昇華する懐石料理にも似て、数千円しかしないそれを挿すだけでぐっと高級なスーツに見えてくる魔法すらポケットチーフは持っている。イタリア人は洋服談議をことのほか好み、ポケットチーフはリネンに限ると主張するが、なにシルクでもコットンでもウールでもべつにかまわない。私はお洒落について決して手を抜く事はないんですよよいうことをポケットチーフをすることで「宣言」しているとわたしは考えている。ポケットチーフをしてみると最初はキザに感じるかもしれない。そんなときは四角くポケットからすこしだけ頭を出すTVフォールドにしてみると抵抗がないはず。慣れてくるといろいろな挿し方を試してほしい。挿し方についてルールなどまったくないのだから。

ポケットチーフとネクタイはできれば同じ色にしないほうがコーディネイトに幅が出る。ネクタイとポケットチーフの揃いのものを買って持っている方はできればいっしょにせずにべつべつに使った方がいい。

3年前、加賀美社長ひきいるドーメルジャポンが東日本震災を支援すため被災地にサクラを植える企画で製作したポケットチーフを持っている。これはネイビーのシルクにサクラの花がデザインしてありいつもソメイヨシノが咲き始める頃だけするようにしていたがあえて今日スーツの胸ポケットに挿してみた。その心は春、サクラの花の開花をまつということにしよう。
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チェリーブロッサムのポケットチーフはロロピアーナソフトタッチ130のグレーのスーツにカンクリーニ素材のパープルロンドンストライプ、そしてブルーグレーのアンジェロフスコのドットタイであわせてみた。