一張羅(いっちょうら)は、2つの意味があるようです。通常は「他の服・衣類などを持っておらず、唯一の衣服である」という意味で使われるようですが「その人が持っている服・衣類の中でもっともいい(高価な)もの」という意味もあるそうです。今日お話の一張羅とは「もっとも良いスーツ」という意味です。

当店のスーツは日本最高のモデリスタ、柴山登光先生が設計監修をしていただいています。20年ほど前、先生が設計した現在当店のスーツのプロトタイプにはじめて袖を通した時、衝撃が走りました。それまで自店のスーツが抱えていた多くの問題点がすべて解決していた美しいスーツだったのです。以来、金額の高低は問わず、すべてのお客様のスーツをそのプロトタイプに基づいて仕立てることにしました。それが今当店の本バス毛芯スーツとなっています。以来、当店のスーツへのお客様からの高い評価と信頼に繋がっています。それくらい柴山先生の設計監修のお仕事は当店に強い影響を与えてきました。

2019年に柴山先生にひとつ無理なお願いをいたしました。先生は世界最高のモデリスタであると同時に、お客様のスーツを縫うことはないですがハンドメイドテーラーでもあります。そんな先生との深いご縁を記念して、どれだけでも待ちますから私のために一着スーツを仕立てて欲しいと。

先生に快諾をいただき、素材はロロピアーナのベーシックなウールカシミアフランネルミディアムグレー無地を選び、当時つきあいのあったフィレンツェのマリック裏地店の裏地を使いました。秋頃、素材と基本的な採寸データを送ってから、仮縫いは2020年の1月に先生のスタジオで行いました。先生は慎重に仮縫い服を観察して、わたしの猫背でなで肩の身体に合わせて修正をしていただきました。その様子は撮影もしています。

そして仕立て上がったのがコロナが日本でも始まった春。先生がハンドメイドで仕立てたスーツは美しいクラシック・スーツとなりました。

ただ思わぬ伝染病に世界も日本も厳しい状況でしたのでこの話もブログで紹介もできず。まずその年の11月、津のロータリークラブで着こなしの講演をしたときに着用いたしました。あるドクターからコロナの時期は免疫力を高めるためにダイエットはするべきではないというアドバイスをいただき、それを良いことに食べすぎて、だんだん体重が増加してきました。今年の秋になり試着したらかなりきついので柴山先生に修理をお願いしようかと思いましたが、そんな失礼なことをお願いするよりダイエットしようと、この冬からなんとか3kgほど体重減に成功。当時の体重にもどりこのたび快適に着られるようになりました。

先生が仕立てたスーツはピッティ・イマジネ・ウォモの会場見るようなバランスのとれた美しいスーツで、地方の街のテーラーが仕立てた「手作り感」あるスーツとは別物です。ハンドメイドの細部にわたって素晴らしい出来栄えですが、特筆すべきは、当店でオーダーできるスーツに非常に近いということ。それは当店が依頼している縫製工場を20年以上の長きに渡って指導、監修されているので、縫製工場が先生のメソッドに真摯に向き合い縫製技術を研鑽しているということ。先生の指導の正しさの証明でもあります。

落ち着いた仕上がり
緻密な仕事がわかります。ラペルの色気も素晴らしいです。
今はもうないマリックのマルチストライプ裏地

4年前、先生のスタジオでの仮縫い風景。

これが仮縫いのスナップです。こんな幸せは他にありません。

柴山先生のスタジオにてパンツの仮縫い
仮縫い時、先生とスナップ。