ご来店のお客様にフォーマルウェアの事を聞かれることが多い。特に多いのは結婚式や葬式に着る略礼服についての質問だ。
略礼服かダークスーツか?
略礼服は日本独自ではあるが外国特にヨーロッパのダークスーツに当たるものと考えていただければ良いと思う。それなら外国のルールに従って結婚披露宴や葬儀にはダークスーツにすれば良いと思う方もいるかもしれない。しかしフォーマルの一番大事な精神は「場を尊重する」ということ。いくら洋服の本場のルールとはいえ日本で開かれるセレモニーの参加者はみんな黒を来ているのにたとえば濃紺のスーツだとやはり浮いてしまうということになる。「場を尊重する」ということは場に溶け込むつまり目立たなくなるということ。結婚披露宴ならば新郎新婦がいちばん目だたなければいけないし、通夜葬式の場合は故人を悼む気持ちで目立ってはいけないので黒のスーツが一番ふさわしい。
略礼服とブラックスーツは違うのか?
日本の略礼服は近年、服地を酵素などでウールの表面加工し黒の染料をよく染み込ませ深い黒にするスーパーブラック(濃染ともいう)加工を施しどんどん黒くしていった。これは黒が黒ければ黒いほど高級という偏った思い込みがあったからだと推察される。だからいかにも日本の略礼服の黒となってそのきわだった黒さはフォーマル専用となって行った。それに対して近年日を追うごとにビジネスシーンでも一般的になってきたブラックスーツにはスーパーブラックでない自然な黒無地ウーステッドウール素材を使う。ヨーロッパ織物工場で生産される黒無地の紳士服地はすべてこの色となる。
したがってスーパーブラックの略礼服はフォーマルしか使えず、自然な黒無地のブラックスーツはクラス的に実はスーパーブラックと違う訳ではないので略礼服としてもビジネスにも両方の場面で着る事ができるということになる。
ダブルブレストのほうがシングルブレストより正式か?
軽快なシングルスーツよりダブルブレストのスーツの方が威厳があるからか30年くらい前までは略礼服というとダブルブレストだった。それが6ボタンダブルからバブルのころソフトスーツの4つボタン下掛けダブルに人気が移り近年では95%がシングルになりダブルの礼服をオーダーされる方はほとんどいらしゃらなくなった。それでもダブルブレストとシングルブレストとどちらが正式かという質問を受ける事がある。正式度はどちらも同じというのがその答え。夜の正式なフォーマルウェアであるタキシードもシングルブレストだということからも分る。
それではおすすめの理想的な略礼服とは?
わたしなら自然な黒色無地の素材を使ったシングルブレストスーツのノッチラペル2ボタン、センターベント、パンツはシングルをお勧めする。タイトルに理想的と書いたがそれは最も正式というよりもっとも使いやすいという意味。これならどんな場所でも礼を失することなく「場を尊重する」という精神が実現するはず。そして便利なことにビジネスにも使える。たとえば名古屋に住み東京の結婚披露宴に参列する場合、参列するそのままのきこなしで着ていくと偶然あった知り合いに「何があるんですか?」と尋ねられることもあるかもしれない。だから会場のホテルなどまでこのブラックスーツを着て薄いブルーのシャツにたとえば濃紺のドットのネクタイをあわせ淡いピンクのポケットチーフを挿して行く。そして会場で白無地ポプリンのシャツ、シルバーグレー無地かストライプのネクタイ、白のポケットチーフに着替えればきちっと決まる。
2ボタンにする意味はタキシードは1ボタンということでもわかるように3つボタンよりボタンの少ない方がフォーマル感が出る。 サイドベンツは乗馬服が起源でどちらかといえばスポーティなデザインなので避ける。パンツの裾のダブルもアウトドアファッションのなごりなのでこれも避けシングルにするというのがおすすめの理由。
披露宴のちょっとしたコツ
結婚披露宴では必ず白ポケットチーフをして欲しい。会場のホテルなどでボーイさんなどスタッフはポケットチーフをしないという不文律がある。だからポケットチーフをすることでボーイに間違えられるという事はなくなる。そしてできれば白のネクタイではなくライトグレーのネクタイにしたほうがぐっとすてきになる。くれぐれも鶴亀ジャガード柄の白はやめてほしい。ライトグレーネクタイは無地でも白黒のはいったストライプでもいい。ストライプのネクタイを選ぶときなるべく黒の成分より白の成分が多いネクタイの方が披露宴にはふさわしい。
葬儀についてのちょっとしたコツ
いつもクラシックスーツを着ているときネクタイにディンプルを作って締めているが通夜葬儀についてはディンプルはエクボを意味するからするべきではないとある洋服通から聞いたことがある。それを聞いてから故人を悼む気持ちを表して通夜葬儀の黒ネクタイはディンプルを作らないようにしている。
オールシーズンのブラックスーツというのはあるの?
残念ながらすべてのシーズンを快適に過ごせる素材というのはメーカーのうたい文句としては存在するが実際のところそれは無理というもの。一着だと暑い時か寒い時がまんしなくてはいけない。エアコンが効いているから3シーズンを一着持てばいいというお客様もやはり多い。どうしてもフォーマルは余分な一着と考える方も多いからそう思うかもしれない。でも冠婚葬祭など「フォーマルという場は男の見せ所」でもあるのだ。できれば6月から9月に着る夏用平織り素材と10月から5月に着る秋冬用綾織り素材をひときわ高価な高番手素材でなくてもなにかことがある前に慌てずそろえておくと安心できる。
自然な黒として秋冬ブラックスーツ用に人気がある伊カノニコ社スーパー110sツイル260g。当店オーダー価格59800円(税込)
結婚披露宴には白ではなくこんなシルバーグレーネクタイがふさわしい。