当店で仕立てたスーツ、ジャケットについて袖口について本切羽とも本開き本穴ともいわれる本当にボタン穴がついていて開閉できる仕様が無料で標準装備になっている。既製品のスーツの場合は穴を明けてしまうと修理が出来なくなるのでまずこの仕様にはしていないし、穴の空いていない上着の袖にこの仕様をほどこすと費用がかかってしまう事も多い。

わたしは東京文京区根津にあった伊丹裁断教室で洋服、裁断、オーダーについて学んだのだがそのとき伊丹嘉之先生からこれはお医者様が診察の時腕まくりするとき使うので「ドクターズカフ」ともいうんだよと教わった。仕事を始めた32年前はほとんど本切羽、本開き本穴を指定されるお客様は「洋服通」’」の方以外いらっしゃらなかった。15年ほど前からだろうかクラシコイタリアのブームと時をおなじくしてご希望されるお客様が増えてきた。

本切羽、本開き本穴は手間とコストはかかるがやはりフェイクではなくちゃんと穴があいていてオーダーメイドらしいと思う。 お客様がご指示しなくても当店では本開き本穴にする。オーダーは「高級」なものだとお客様から期待もされている。その気期待に応えたいという思いからそうしている。スーツで腕まくりするわけではないので実際に使うわけではなくオーバースペックかもしれない。でもお客様が袖が開くことを気付いた瞬間、ちょっと誇らしい気分になるのではないか。たとえばお父さんの着ているスーツを息子さんが見て本開きに気がつけば、がんばっているお父さん、やっぱりいい背広着ているんだねって思う瞬間ってあると思う。
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