今年1月12日、イタリア・フィレンツェで開催された Pitti Immagine Uomo に、夫婦で足を運びました。一年ぶりに現地の空気を感じながらこの展示会を見て、あらためて強く思ったことがあります。それは、「クラシックスタイルは、やはり変わらない」ということ。

コロナの前まで、日本の著名なセレクトショップや百貨店の多くのスタッフがピッティを視察し、「今年は何が流行るのか」「今年のスーツスタイルのトレンドは何か」を探り、それをお客様に紹介したり、ネットで配信したりする動きが盛んでした。しかし今、その流れはどうやら一段落したようです。
実際にピッティを見渡してみても、「今年はこれが流行です」とはっきり言えるものは、まず見当たりません。クラシックなデザインのスーツ、ジャケット、コート。それらをどう着こなすかについては、一人ひとりに違いがありますが、「これが流行だ」と皆が同じ方向を向くようなものは、ほとんど存在していないのです。

ピッティの会場では、参加者の装いは実に多彩です。色使いで個性を出す人、素材感で変化をつける人、少し力を抜いたスタイルを楽しむ人もいます。しかし、その土台にあるのは、やはりテーラー仕立て。イタリア人のテーラーの仕立てへのリスペクトは強く感じます。ちょっと日本、世界のスーツの歴史を思い出してみます。
日本では1960年代から70年代にかけて、石津謙介 さんが主宰したVANを中心に、トラッド、いわゆるアイビーファッションが、スーツやジャケットスタイルのメインストリームだった時代がありました。
アイビーファッションは、もともとアメリカの大学生のスタイルですが、それを「一過性の流行ではなく、伝統的な装いなのだ」と捉え、日本に根づかせたところに当時の大きな意義があったのだと思います。現在で言うところの「クラシック」ですが、当時は「トラディショナル」という言葉が、しっくりきていました。現在の日本のクラシックスーツ文化を支えているのも、この時代に育った世代であることは間違いありません。
世界に目を向けると、1980年代には アルマーニ をはじめとするデザイナーズブランドが、スーツのデザインを牽引し、時代性や新しさが強く打ち出されていました。アルマーニはそれまで西洋のヨロイのようだったセヴィルロウのテーラーが作るスーツに軽さ、柔らかさを求めたのです。これはスーツを大きく変えました。
1990年代になると、イタリア、特にナポリのテーラーのハンドメイド仕立てが再発見されました。それまで田舎っぽいスーツだと思われていたナポリ仕立ては、実は英国セビルロウの堅牢な仕立てとは違い、ハンドメイドでありながら軽く、動きやすいという「現代性」を持っていたのです。
軽さ、動きやすいというエッセンスを取り入れながら、工場生産でありながらもナポリ仕立ての軽さ、柔らかさや着心地を表現したスーツ、アットリーニなどに、世界の視線が集まるようになります。これはまさに「クラシコ・イタリア」の発見であり、イタリアやイギリス、そしてヨーロッパのスーツスタイルが、あらためて世界の基準として定着していく大きな転換点だったと言えるでしょう。この頃から、スーツにおける「流行」という概念は、じょじょに少しずつ薄れていったように思います。


ピッティ・イマジネ・ウオモは、現在、派手で目を惹くカジュアルのブースに目が向きがちですが、メインの一番大きな会場はやはりイタリアのテーラー文化の精神を強く感じるクラシックスタイルのブースです。現代のピッティは、「流行を探す場」というよりも、「定番アイテムをどう着るかを見る場」になっているように感じます。
オーダーサロンとして日々お客様と向き合う中でも、長く着続けられる一着とは何かを考えると、答えは自然とクラシックスタイルに行き着きます。フィレンツェで見た光景は、そのことをあらためて確信させてくれるものでした。










































