日陰に入ると涼しい風が吹いているのに気がついた。もう秋も近くまで来ているのだろう。とはいえまだ日中は35度近く外にいると倒れそうな気すらする。だからクーラーの効いた店内にじっとしているのだがこんなときは涼しい4年前の記憶をたどってみようと思う。
宮崎駿の名作「ルパン三世カリオストロの城」のモデルにもなった町マントヴァはミンチョ川もせき止めたマッジョーッレ湖メッゾ湖インフェリオーレ湖(大湖、中湖、小湖の意)という人工湖に護られた古都だ。町を形を地図で見たり、西洋史を読んでいたりしたら行ってみたくなった。一月のピッティウオモを見てからマントヴァに足を伸ばし、ホテルのレンタサイクルを借りて古都をサイクリングしその後ミラノで仕事をするという一人旅の計画を立てた。フィレンツェについてみると雨が降っていて駅で折り畳み傘を買った。フィレンツェは2泊してピッティウォモを見てからマントヴァにはボローニャ駅でローカル線に乗り継いで行く。フィレンツェからの電車は予定より遅れてボローニャ駅に着くと乗り場はすこし離れたところにあった。そこまで大きなトランクをひっぱって小走りで行く。ローカル線に乗ったらすぐに出発。危ない危ない。もし乗り遅れたら半日待たなければならなかった。緑の平野を小一時間走りマントヴァに到着。駅からはタクシーで町の中心部に近いモダンなホテルに着く。ガイドマップを貰い、小雨のなかだったが自転車に乗って出かける。マントヴァの町を囲む3つの人工湖を自転車でサイクリングするのを楽しみにしていたから。でもしばらく走ると雨も強くなりあえなく予定撤回。ホテルに戻り昼飯を食べてからチェントロに行く事にする。マントヴァ近郊には「イルペスカトーレ」という三ツ星の名レストランもあるが男ひとりではタクシーで行く気にもならずホテルに教えてもらって近くのレストラン「二匹の馬」に行く事にする。可愛い名前のレストランは内装も可愛く、品のいい家族が何組か食事をしていた。ビーノデラカーザ(ハウスワイン)と頼むとたいてい地元のワインが出てくる。安くて旨いのでイタリアではそれしか頼んだ事がない。ここマントヴァの赤ワインは濃い色で発泡性がある。冬なので北イタリアの名物各種肉のおでんボルートミストを頼む。モスタルダという芥子味のジャムを付けていだたく。そして特筆すべきは薄切りのローストビーフ、ワインと合わせさわやかな味わいだった。空腹も癒えて歩いてチェントロにあるドッカーレ宮殿に行く。冬のマントヴァは観光客も少ない。往時の繁栄を伝えている大きい宮殿はひとりで歩くとちょっとこころ寒くもある。宮崎駿もきっとここをおとずれてカリオストロの城のイメージを膨らませたと想像しながら中を巡って行く。螺旋階段を登ったところにあるマンテーニャのフレスコ画が有名な結婚の間という部屋がここのハイライトとなる。それを見てからテ離宮に向かった。歩いて行けると思ったがかなり遠い。足が棒になりながら雨の中を歩いた。冬のイタリアのローカル都市、タクシーも拾えない上すれちがう人もすくなく寂しくなってくる。やっとの思いでテ離宮についた。ここではジュリオロマーノの巨人の間が名高い。天井のフレスコ画だがまだジュリオロマーノのことを良く知らなかったのであまりその素晴らしさも理解できぬままそこを去った気がする。そのときは寂しい気分だったとおもうが過ぎてしまうとそれも良い思い出となっている。次の朝ローカル線に乗りミラノへ帰る。ミラノからマントヴァはたしか運賃9ユーロくらいで意外な近さにびっくりしたのを覚えている。
マントヴァを囲む湖に架かる橋
対岸には幻想的な並木が
ドッカーレ宮殿のあるソルデッロ広場。冬の雨の日だれもいない。
ドッカーレ宮殿からはカリオストロの城を彷彿とさせる景色が
瀟洒な回廊の向こうに湖が見える。
シナモンが効いた肉のパスタ。
イタリアのおでん、ボルートミスト 上右のモスタルダを添えて
このローストビーフの味はわすれられない。
ドッカーレ宮殿にて。ひとりでこの回廊をあるいているとなんだか寂しくなる。
雨がそぼふる巨人の間で有名なテ離宮