黒のスーツをフォーマルでなく普通のビジネスなどに着る事が多くなりました。就職試験会場などでは男女ほとんどがブラックスーツ。以前は就活は濃紺無地かチャコールグレーでしたがほぼ100%黒。かってコムデギャルソンが世界的に評価を受けたのも影響しているかもしれません。そういえば10年前はほとんどブラックスーツを着た人を見なかったピッテイウオモの会場でも近頃ブラックスーツをみることもよくあります。

ヨーロッパでは日本と比較してタキシード以外に黒を着る事が少ないと言われていました。昼間の葬儀、結婚式にはダークスーツを着ることが多いからだそうです。日本文化にじゃ略礼服つまりブラックフォーマルというものがありこれで結婚式 、通夜、告別式、仏事などすべてカバーできます。そして日本の織物メーカーはその略礼服用の服地に研究を重ねてきました。秋冬素材としてはウール100%のドスキン、タキシードクロスと言われる均質な表面感でしっかり織った素材、夏にはウールトロピカル、モヘアウール、モヘアバラシア。黒の色にも研究をかさねてきました。テーラーのあいだで良い黒の色のドスキンとして有名なもので御幸毛織のM7があります。これはすこし青み、がかった黒の色でミユキしかできない色といわれています。

日本の略礼服のデザインは20年前はほとんどダブルブレストの6ボタンでしたがいま私の店でオーダーいただくのはシングルブレストがほとんど。これはシングルの方が重々しくなく、夏にはシングルの方が重なりがなく涼しいという事もあるでしょう。よくシングルとダブルどちらが略礼服として正式ですかと聞かれます。ヨーロッパの軍服から由来したとも言われるダブルのほうが正式だと思う方もいますがこれはどちらが正式だということはありません。シングルで正式さにこだわるなら、1ボタンピークラペル、フラップ無し、ノーベントそしてパンツの裾をシングルをお選びになると略礼服としてもっとも正式なディテールです。

いまから10数年前でしょうか、日本マーケットでスーパーブラックというものが登場しました。
それは薬品を使ってウールの表面にあるスケールと言われるウロコを取り除き黒の染料を染み込みやすくして黒の色を深くした素材です。その色は普通の黒と比較するとひときわ黒が深いので日本の略礼服ブラックフォーマルには最適でした。黒が深いほど「良い素材」という信仰めいた意見もマーケットにあったのも確かです。

ヨーロッパ製の例えばゼニア、ロロピアーナ、ドーメルで作られた黒無地の服地はスーパーブラックではありません。普通の黒です。

当店でも略礼服用にはこのスーパーブラック素材が用意してあります。でも普通の黒でもフォーマルスーツとして十分通用します。そしてそのままで普通の黒ならビジネスで活用できます。私個人の意見としましては略礼服としてしか通用しないスーパーブラックより略礼服とビジネスと両方の状況で使える普通の黒のほうが汎用性は高いのかなとおもうのです。薬品を使いスケールを取り除かない普通のブラックの方がよりウール本来の性質は損なわれないはずですし。
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上がロロピアーナウインタータスマニアン(普通の黒)、下がミリオンテックス(スーパーブラック)比較すると黒の違いは一目瞭然です。