寒い日がつづいてきて一時的な北風ではなくもうまぎれもない冬。今朝はフランネルのスーツに毛糸のジレを着る。

昨日は水曜休み。朝ウェブで天気の情報をみながら雨雲の無い三重県方面か雨の予報だが紅葉が見頃な九頭竜湖かどちらかにドライブに行こうか考えていた。シートに腰をしずめハンドルをにぎるまで決めかねていたが、行けるところまで行ってみようと北に向かった。 北に向かったのには理由がある。9月に福井県大野市に初めておとずれてその場所のたたずまいに強く惹かれたことが大きい。街で毎日くらしているとせちがらさに毎日さらされてつらくなってくることがある。街に生まれ街に年中暮らしもうそんなものは空気のようなもので鈍感になっているはずのぼくでもときどき息苦しい気分になる。田舎に行きたい。田舎の空気が吸いたい。休みになるとほんとうにそう思うのだ。そしてあこがれの桃源郷としての田舎のイメージがぴったりくるのが越前の大野かもしれない。美濃の山を越え、湖の脇を走り谷に沿って曲がりくねった道をしばらく行くと山並みのあいだに田園地帯が広がる平野にでる。その先が大野の街、湧き水がいたるところに湧き、丘の上には城が見え古い町並みやお寺が残っている。この街にくるだけでなんだか安らいでしまう。街で買い物をして店員さんとおはなししてもやさしい方言でこちらもやさしい気分になる。
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晩秋の九頭竜湖
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山の上の方はもう雪がちらほら。
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仏御前の滝

昨日は雨の予想で交通情報では飛騨清見のあたりでチェーン規制になっている。凍結注意の看板をみながら油坂をこわごわ登る。九頭竜湖の脇を走るころ、福井に住む友人モリカワに電話をして福井産の蕎麦粉のみを使うそばの名店「梅林」で2時間後に昼食を一緒にする事にした。それまで途中でみつけた「平成の湯」という天然温泉にはいったり、紅葉に映える仏御前の滝を訪ねたり休日のひとときをひとり楽しむ。

時間通り大野に着き、おまちかねの「梅林」で越前地方独特のおろしでたべる越前そばをいただきながらモリカワ夫婦と昔話に花をさかせる。食後に場所を替えて大野城前の結ステーションでコーヒーを飲みながらさらに昔話の続き。その頃には天気予報では雨だったはずなのに雲の間から日が照って来てぽかぽか陽気になってきた。話もつきないが先をいそぐのでモリカワ夫婦とも別れ今日の目的である真名鶴さんの酒蔵に行く。わたしどものお客様で京都府福知山で美味しい焼き菓子をつくるAさんに大野にはいいお酒があると教えてもらった。それが真名鶴で山からの湧き水が豊富な大野ならいいお酒ができるはずでどんなお酒かどうしても飲んでみたくなったのだ。 クルマなので試飲するわけにいかないのでお店の人に味の傾向、作り方をじっくり説明してもらう。きくとグルメの街のパリや酒にうるさいロンドンからの注文も入ってくるそうだ。飲みたくていてもたってもいられなくなり、寒さがきびしくなる前に、途中で福井県民がこよなく愛する油揚げとかこのあたりの名産の里芋も各サイズ買い込み、帰途につく。
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梅林の越前そば。いつたべても美味しい。
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久しぶりにあった友、モリカワ。良いヤツである。
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家で飲んでここの酒にはまってしまった。おすすめは「奏雨
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大野名物さといも。農家の倉庫で選ばせていただいた。農家の大量の里芋は圧巻。

帰る前にでノドをうるおそうと市内中心の湧き水処御清水に立ち寄る。御幸毛織のものだとおもうがしっかり織ったダブルクロスでまちがいなくビスポークでしたてたスーツを着た紳士がペットボトルに何本も水をくんでいた。どんな用途に使うのかと訊ねてみたら、この水でお茶をたてるのがいいそうだ。おにいちゃんも欲しかったらペットボトルあげよかといわれ遠慮無しにいただく。旅先での親切はうれしいものだ。世界は親切でできている、ほんとうにそうおもう。親切なんか結局は偽善だぜという口の悪い連中もいる。ぼくにペットボトルをくれた紳士は以前、ここで別のひとにペットボトルをもらってこの水のうまさを教えてもらったといっていた。まさに親切の連鎖である。ぼくもその縁を切らさぬように他人に親切にしていこう、そう思った。そんな事を思いながらまた越前と美濃の峠を越え家路についた。
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けさ、大野、御清水(おしょうず)の水でいれたコーヒーはとろりと格別な味がした。