先週の木曜日に満56才になった。その朝ひとりで日比野の場外市場に行き、宮城産のおおぶりの牡蠣を買い夕方には妻にフライにしてもらった。レモンを絞りウスターソースを掛けシャブリをいっしょに家族全員でいただいた。このところ自分の誕生日はこうしてすごしている。ある先輩から50になったら歳をとるのが早いよと言われていたがやはり本当に早くあっというまに一年が経ってしまう。ただこれはぼくだけのことではなく生きとし生ける世界中の男女はすべてそうなのだから甘受しなくてはなるまい。

20代になるまえの若い頃は本当に五里霧中だった。青春時代はよかっとはまったく思えない。知恵も金もなくどうやって生きたらいいかよくわからなかった。この地区では有名な私学である東海高校を卒業したのだが高校時代が素晴らしい時だったかというと全くもってそうではない。試験勉強も追って来るし、日を追うごとに勉強の内容も難しくなり一度判らなくなるともうその先は真っ暗なトンネル。無知蒙昧な輩に自分がなって行く哀しさったらない。今は格差社会というが、もうそのころ十分に格差はあった。金持ちで彼女もいて、ふんだんにポケットマネーを持っていて才能もあふれている奴がまわりにいっぱいいてなげやりな気分になることもしばしば。そのころから音楽が好きだったが今はネットで音楽などは安く聞けるが、好きなロックのレコードもわずかなおこずかいでは高くてなかなか買えない。栄に東芝や日立やパナソニックのオーディオのショールームがあってそこにわざわざ出かけて行ってレコードを聞きに行ったっけ。おこづかいを貰ったら、ガソリンスタンドのアルバイトをして買ったスズキミニクロに乗って中川区のホワイト餃子にいってお腹いっぱい食べるのが月一回の愉しみだった。

そんなみじめな若い頃を思い出すと56才になったいまは本当に自由だと言える。 かって中川イサトは自身の曲「その気もなれば」で
ジットリと汗ばんできたら
よしずばりのなかで
みぞれを食べて
夕日の頃には空の色をたしかめながら
時間を数えてみせる
コーラを飲むタバコを吸う
ポケットには金はある。
その気になりさえすれば
夏の終わりの海にいられるのに
と歌ったがいまその気になりさえすれば休みにはふらり好きな場所に行くこともできる。自由に好きな音楽も聴けるしライブを楽しむ事もできる。おかげさまで健康で家族にも恵まれ、大きい財産はないが毎日のお金に困る事はない。それに一番大事な事は好きな仕事がある。この歳になるとリタイアの夢を語る友人も多いがテーラーという仕事がいやではないのでいつか辞めてやると暗くこころの中で思う事も無く、続けられるだけ続けてやろうとおもう。何人かのお客様からもしタナカさんがなくなったら困るといわれるようになってきた。当店をとても頼りにしていただく感じが最近つたわってくる。それはとても励みになることで次の季節にはどんな素材を買い付けようとかどんなディテールで仕立てるのがいいのかなと毎日思っている。そう考えると若い頃よりずっとずっと幸せだ思う56才を迎えた朝だった。
214kaki
牡蠣フライはレモンとウスターソースで食べるのが好き。シャブリもいいがウイスキーでもいい。