当店のジャケットの胸のポケットのラインはすべてゆるいカーブを描いている。ご存じの方も多いと思うがこれはバルカポケットと呼ばれナポリのスーツの代表的なディテールで現在日本でも多くのスーツがこれを採用している。日本では約20年ほど前クラシコイタリアで知られるようなった。バルカとはイタリア語で小舟のことで胸ポケットが船のへさきのように見えるのでそう呼ばれる。当然まっすぐ仕立てる方が楽だがどうしてわざわざカーブを付けてしてるかというと単にオシャレということではなくてそれには隠された意味がある。通常スーツを仕立てると胸ポケットは斜めにまっすぐ仕立てられる。それが何年か年月を経て重力でポケット中央あたりが垂れ下がって自然にカーブを描いてくる。古い背広を見るとそんな風になっているものが多い。最初新品のときからわざわざ手間をかけてカーブをつけるということはわざと着古した雰囲気を演出しているということ。デニムを最初から着古したようにみせるダメージ加工、家具を古く見せるアンティーク加工のひとつと考えてもいいかもしれない。洋服はそもそも直線部分が少なく曲線で仕立てられているので胸ポケットもカーブをつけるとよりまろやかな雰囲気になるのもこのディテールが世界中に広がった理由でもある。 
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当店のバルカポケット。ポケットのフチを手でまつっている。時間と手間とコストはかかるがこれが一番美しいポケットの作り方だと考えこのやり方を続けている。

当店はこのディテールを取り入れた10数年前と比較すると今はカーブの度合いを少なめにしている。あまりどぎついカーブだと主張がありすぎて「味が濃い」ジャケットになりかねないので4年ほどまえからカーブを少なめにして穏やか(イタリア語でモデラート)な味わいにした。 ディテールでこてこてのジャケットよりお客様の目が成熟して穏やかなものが好まれるようになってきたからだろう。
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以前の当店バルカポケット。右にいくほどやや広がる感じをだしていた。
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ポケットチーフを挿すとバルカポケットがさらに引き立つ。 そして間違いなくスーツが引き立つ