今朝若いお客さまからカノニコ社シャークスキンのオーダーをいただき、採寸した後当店のことはウェブで知ったのですかと尋ねたら、いえ父が以前ここで仕立てていましたとのお答え。お客さまの名前を見て急に35年前に洋服屋を始めた頃の思い出が蘇ってきた。

そのお客さまはNさん。旧友で今は明治大学教授をやっている管啓次郎のお父さん春義さんの取引先だった。
春義さんはわたしを我が子のように可愛がってくれて、タナカ君が洋服屋になるならと23才の私へのはなむけとして英国ウェインシール社ミディアムグレーのモヘアトニックでスーツをオーダーしてくれた。 その一着が人生最初のオーダーのお仕事。汗をいっぱいかきながら採寸した夏の日を昨日のことのように覚えている。ときどき春義さんがメンバーだった六石カントリークラブへゴルフに連れてっていただきそこで知り合った飛ばし屋ゴルファーがNさん。 Nさんは大手ゼネコンにお勤めでいろいろな地方に転勤されてもときどきオーダーに来店いただいた。男らしい方でオーダーの際に交わしたお話もよく覚えている。今もお元気でゴルフもされているそうだ。

35年の齢を重ね、ずっと若手テーラーと言われていたが気がつけばベテランといわれる洋服屋になってしまった。仕事に追われている毎日だがその最初の一着があるから今のわたしがある。その一着目からえにしの糸がずっと切れないでつながっていることに感謝する晩秋の朝。

DSC05998