一昨日の9月3日(日)、日本経済新聞に服飾研究家中野香織さんの書いた半ページの記事「静かなぜいたくの時代」がありました。大きなブランドロゴなしでインスタ映えとは対極の抑制された落ち着いた自然な色で高級素材を使ったファッションを「クワイエット・ラグジュアリー」と言うとのこと。「秘められた富」「隠された高級さ」をもつブランド「ロロピアーナ」「ブルネロ・クチネリ」「ザ・ロウ」「エルノ」などがこの秋注目されているそうです。

持続可能性に重きが置かれる風潮の中で、長く着られる服を選びたい、そんな選択ができる人と見られたいという願望が若い人の間で高まっていることと無関係ではないだろう。

日本経済新聞9/3「静かなぜいたくの時代」中野香織著
日本経済新聞 9月3日(日)服飾研究家中野香織氏が書いた「静かなぜいたくの時代」

もともとテーラーは「匿名性」が持ち味であり、「クワイエット・ラグジュアリー」に近い世界で生きているつもりです。テーラービジネスにも関係が深いロロピアーナがそんな「クワイエット・ラグジュアリー」の流れの中心に躍り出たということはちょっとおもしろいところです。サスティナブルとか言われている昨今、毎年のように新しい切り口を求めるモードは逆説的ではありますが、「新しいものを求めること」が「時代遅れ」なのでしょう。さらっと高品質な素材を使い普通のデザインで長く着るのが「新しい」と、デザイナー泣かせの時代に入ってしまいました。

実際デカデカとハイブランドのネームが書かれた激しいデザインの服を見るとその醜悪さについ目をそらしてしまいます。20世紀の終焉をもってそんな服は消え去ったと思ったら、デザイナーたちによって「世界観」の名のもと再生産されているようです。先日も東京、三越銀座店の一階に入ったら、ハイブランド以外のアイテムを着る自分が考えられないという妙な自信にあふれた内外の若者で溢れていました。いたたまれなくなって横断歩道を渡り、銀座和光の落ち着いた空気に一息ついたのでした。

戦争や暴動や自然災害で苦しむ人も多い世界で、ブランドロゴに頼る虚栄が見え隠れするファッションの誇示は鈍感さの露呈にしか見えない。経済的困難や自然災害で苦しむ同胞が多い時、良識ある人は、浮かれはしゃぐ姿を外に見せることはしない。トーンダウンは配慮である。

日本経済新聞9/3「静かなぜいたくの時代」中野香織著

先の7月ロロピアーナトランクショーでオーダーいただいた、染めていないカシミア100%素材「カシミア・ロウ」のジャケットが何着も仕立て上がってきました。当店のお客様の趣味の良さに感服しつつ、オーダー世界における「クワイエット・ラグジュアリー」を体現しているこのジャケットたちにちょっと見惚れています。

染めていないカシミア100%素材ロロピアーナ「カシミア・ロウ」で仕立てたジャケット