43年前にスーツのオーダーのしごとを始めた頃は、ちょっとどうかなあという柄や素材感で気に入らない素材も店の中に点在していました。当時はそういうのを避けてお客様に勧めていたのですが、そういう気に入らない素材はお値段を安くしても結果的には売れなくて廃棄することになったこともあります。改めて自分のお店をぐるっと眺めてみると、自分が選んだイタリア、英国、日本のいい素材ばかり揃えたなとちょっと感慨にふけってしまいます。

ただ良い素材だというっても、言ってみればただの布なので、一般の方にくわしく説明しなければ良いスーツ、ジャケットになるかどうかもわかりません。そのため伝えるということは重要になります。最初の頃はテーラー専門の印刷デザイン業者があって、いくつかのテンプレートから選んでパンフレットを作っていました。ただ字数も限られ、効果的ではありませんでした。新聞テレビなどのメディアを使うほどコストを掛けられず、宣伝には苦心しました。安価なギザギザの字の家庭用ワープロがでた頃それで版面を作ってダイレクトメールにしていました。マッキントッシュを買って、やっときれいなダイレクトメールが自作できるようになりました。

ポリシーについて

当時は服地にブランドネームを織り込んだだけのどこで織られたかわからないデザイナーズ、キャラクターブランドブームに便乗した服地を大手デパート中心に売られていました。そんなタバコメーカー、カバンメーカーの名前がついた服地には目もくれず、ロロ・ピアーナ、エルメネジルド・ゼニアのようなどこでどういう原料で織られたかちゃんとわかる毛織物会社の製品だけをがんこに選ぶことが生きる道だと思っていました。

ネットのお陰で

21世紀になってインターネットが普及したのに伴い、いち早く「ordersalon.com」というドメインを取得し、店のポリシーの説明をウェブサイトでできるようになったのが、大手広告代理店に出す経費が捻出できない当店がなんとかここまでやってこられた要因だとおもいます。

ウェブサイトはダイレクトメールと違い、長い文章も許されています。良い原料で良いメーカーがちゃんと織ったいい素材が良いスーツになることを説明することができます。自分のサイトですから自由にスペックも価格もちゃんと表示できます。おかげで現在ではお客様の多くが当店のウェブサイト、ブログを読んで日本全国からご来店いただいております。

ダイレクトメールも続けてます。

ただ、あまりウェブサイトをご覧にならない方のために秋冬シーズン、春夏シーズンのはじまりには服地サンプルを添付したダイレクトメールを作成して郵送しています。これも42年前この仕事を始めたときの気持ちを忘れないようにするため。

今月もダイレクトメール出します。

以前はダイレクトメールも長い時間かかって作って書いていましたが、今秋は友人の公文さんにも手伝ってもらって3日で仕上げました。