スーツについてちょっと考えてみますと、男性用のスーツはヨーロッパの装いをベースにして英国王室を中心として成立したと言われています。長い歴史の中で王侯貴族や顧客とテーラーのやりとりを重ねて少しずつ進化して来ました。有名なデザイナーが主導したわけでも無く、アパレル業界が計画したわけでもありません。
今スーツを語る際に良く言われる「クラシック」とはスーツが経てきた長い歴史をリスペクトする姿勢だと考えています。具体的には現代を生きるモダンなスーツに、どこか古くからのルーツを思わせるディテールを加える。例えをひとつ、「三つボタン段返り」。昔、貴族が着る服(下の画像参照)がまるで今の学生服のようにフロントにずっとボタンが並んでいたことをイメージして、必要でもない上のボタンを残しておく。このボタンひとつにささやかではありますが歴史をリスペクトする思いが込められてます。
上のボタン穴は歴史上の遺物。これをあえて残すのがクラシックのこころ
エドワード7世のツイードジャケット。上の方まで4つボタンがあるのがわかる。ハーディーエイミス「イギリスの洋服」より
上のボタン穴は歴史上の遺物。これをあえて残すのがクラシックのこころ
エドワード7世のツイードジャケット。上の方まで4つボタンがあるのがわかる。ハーディーエイミス「イギリスの洋服」より
例えばパンツの折返し=ターンナップ、通称ダブル。今はたんなるデザインですが中世にアウトドアでスソを伸ばしてくるぶしを保護するためにしたという説も想像できます。
昔の衣服をそのまま時代劇の如く着るのではただのコスプレですが、現代のスーツに加え昔からの伝統の残り香をさりげなくあしらってみる。それがクラシック(イタリア語でクラシコ)の心であるとおもいます。
スソのダブルも典型的なクラシックスタイル。
もう一つのクラシック
クラシックという言葉にもう一つ「上質な」という意味があります。装いの中で「上質」の中心的エッセンスとは何かと考えるとそれは「天然素材にこだわる」こと。ヨーロッパで長く言われているのは装いの原料について、靴は皮革、シャツはコットン、スーツはウールと相場が決まっていること。それをなるべく人工的に合成した素材を加えずに継承していくという姿勢がクラシックの心だと考えています。
ロロピアーナが使うエキストラファインウール
クラシックという言葉にもう一つ「上質な」という意味があります。装いの中で「上質」の中心的エッセンスとは何かと考えるとそれは「天然素材にこだわる」こと。ヨーロッパで長く言われているのは装いの原料について、靴は皮革、シャツはコットン、スーツはウールと相場が決まっていること。それをなるべく人工的に合成した素材を加えずに継承していくという姿勢がクラシックの心だと考えています。
ロロピアーナが使うエキストラファインウール
AIなど、モダンな先進的なテクノロジーが世の中に満ちていくことに、ちいさな違和感を感じている方も少なくない気がします。装い、おしゃれという極めて個人的な体験に、ほんの少しだけ「クラシックな心」を込めて、ちょっとしたレジスタンスをしてみるのも小気味の良いことかもしれません。