7月もなかばをすぎ、外気温が35度を超える今日、いつもの土日は忙しい我が店内も静かな時間が流れている。でもきたる秋冬のためにいろいろな準備をしている。準備の中で一番大事なことは服地、素材の買い付け。当店で人気の高いイタリア製エルメネジルドゼニア、ロロピアーナ社素材の買い付けは季節を先駆ける事半年の3月にまだ生産に入る前の小さいサンプルを見て行う。ほんとうにたくさんの素材から一冬売れる分を選ぶので、細心の注意を払いながら選んでいく作業は時間もかかり昼頃から始まり終わるのは深夜に及ぶ事もある。
昨日楽しい素材を買い付けた。
それ以外にもスポットで買い付けることがある。昨日は面白い素材を買い付ける事ができた。服地商社が持参した沢山のサンプルのなかから見つけたのは「カルロバルベラ社」秋冬素材のロイヤルブルー無地、すこし起毛した表面感。混率はウール65%コットン30%カシミア5%。秋冬のおしゃれなアンコンジャケットになるとひらめき一反ぜんぶ購入。いいジャケットになるだろうな。いまから楽しみ。8月中に入荷するのでまたスペシャルプライスで提案できそうだ。
もうひとつは淡い色のレザーのエルボーパッチ
今年の1月、フィレンツェで開催したピッティウオモで淡い色のエルボーパッチをしている男達をよく見た。あんな色のエルボーパッチがあったらなあと探していたが
淡い色の牛革の1枚皮を何色か買い付ける事が出来た。これもジャケットのいいアクセントになりそうだ。上のバルベラの濃紺に一番淡い色のエルボーを付けるのもたのしいかもしれない。
買い付けの思い出
この仕事を初めた当初つまり30年前からわが父であり先代の社長、田中茂に買い付の仕事を任された。お前が気に入ったものを選べといわれて。まだ青二才であった私と父とで買い付けをした。父の好みの柄、僕の好みの柄もあったが、品質のいい物を選んで買った。買い付けをしながら服地のいろいろな知識を教えてくれた。オーダーメイドにおいて素材を選ぶという事は出来上がる服の7割が決まってしまう重要作業。普通に考えると服地のベテランだった父が選び、僕が接客、採寸するのだろうが息子に早く服地に対する知識を付けさせたいという気持ちでそうしたのだろう。長い期間接客採寸に加えて買い付けをしていたおかげで小さなサンプルを見るだけで仕立て上がるとどういう服が出来上がってくるかイメージできる能力を身につけた。いまから考えると父に感謝するほかはない。その父から教わった2つのことがある。
父から学んだ買い付け哲学1 値切らない事
バイヤーとは安く買い叩き品物を値切ることが使命だと思われているかたもいるがそれは誤解というもの。
売り手は値段を決め、われわれ買い手つまりバイヤーが買うかどうかを決める。買う、買わないを決定する権利をバイヤーは与えられている。売り手が提案した価格を値切る事はまずない。つまり高いと思ったら買わなければ良いのだ。もし値切って買った場合、売り手は次回の買い付けから、値切る人だなとおもって最初の値段をつり上げるかもしれない。商いは長い付き合いとなる。そうなったらやはり双方の不幸なのだ。
父から学んだ買い付け哲学2 支払いは早く
買った以上はすぐ支払いをする。メシを食わなくても仕入れ先の支払いはする。父はかってテーラーさんに服地を卸していたが支払いがおそいひともいてとても苦労していた。そんな苦労を取引先にさせたくないという思いだった。またもっと大事なことは支払いのいい取引先にはよりよい商品がまわってくるのは人の道の常。
17年前 左先代社長 中愚息 右店主 奈良にて