今台風が沖縄近くにいるが、今年の夏は真夏日が続くわけでもなく案外過ごしやすい。そんな月曜の午前、シャツの納品のため一人のお客様Sさんがご来店された。世界中の競馬場に正装して訪問するという素敵な趣味をお持ちだが先週はロンドンに競馬を見に行かれたという。ロンドン、サボイホテル近くの有名なシンプソンズに事前にネットで予約の上でかけたそうだが例のローストビーフの味はどうもお口には合わなかったらしい。彼の地ではローストビーフにはヨークシャープディングという付け合わせと肉汁にとろみをつけたグレイヴィーソースを掛け、ホースラディッシュを付けて食すということを大学時代取っていたT教授の「英国事情」という授業の中で聞いていて、それ以来シンプソンズには行きたいと思っていたのでその話しはとても興味深かった。Sさん、ロンドン滞在中はずっとハットとスーツ姿だったそうだがロンドンの地下鉄チューブのなかで2度席を譲られたそうだ。年齢もそんな高くないのに譲られるという事はきっと他のお客がその方を見て一般市民の足である地下鉄に乗るのに相応しくないほどの高貴な方だと思われたのではないかと推察。Sさんは、自分はへそまがりだから多くの人がカジュアルを着ると今だからばっちりスーツ姿で決めたくなるとおしゃっていた。へそ曲がりというより「崇高な反逆精神」がダンディの証なのだろう、スーツはその場をリスペクトするという意味があるから、へそ曲がりかもしれないがスーツ愛好者は世界中で愛される存在だ。わたしもヨーロッパを旅する際はスーツ&ネクタイ姿が多いがヨーロッパにいるとビジネスシーンのみならず飯屋、酒場、教会などどこでもその姿で笑顔で迎えられるということではスーツはパスポートかもしれない。私も海外旅行だけでなく先のブログに書いた鳴沢氷穴の地下奥深くでもスーツですごしたスーツラヴァーとして若い頃は上田正樹歌う「バッドジャンキーブルース」で「髪は短くネクタイ締めた奴らのいうことは当てにならない」などと揶揄されたりした。東日本大震災のあとのエネルギー危機の中、クールビズ期間にスーツを着るのはまるで悪い事でもしたかのようにいわれたこともあったが、スーツラヴァーとして55年も生きて性根もすわりジョニー宜野湾の歌のように「誰にも文句は言わせない」という境地にもなった。孤独なスーツ愛好者がひそやかに同盟を結んだ夏の午前だった。 
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スーツ同盟。左のSさんピークラペルでハッキングポケット素材はロロピアーナモカ茶コットン 、靴はスエード。右は店主でロロピアーナのグレーウインドウペンにアンジェロフスコのセンタークレストタイ、ブラウンスエード靴。