ブログやウェブサイトを見てオーダーメイドするのは初めてなんですけどとご来店されるお客様は多い。オーダーメイドのスーツを主にやっているテーラーに初めて入店されるのは敷居が高く勇気がいるのに思うとほんとうに有り難いことだと思う。そんなお客様の期待を裏切らずいい洋服を仕立てたいと本当に思う。

初めてのお客様が求めている事とはいったいどんなことか想像してみる。ほとんどの方がオーダーメイドなのだからやはりハイグレードなものを想定しているはず。しかし残念ながら巷にはオーダーメイドでも価格は安いがプラスチックのボタンやポリエステルの裏地など安物のパーツが使ってあったり、隠れたところではあるが重要な内部である芯が毛芯でなかったり接着であったりするものも見受けられる。そして天然素材を希望するとオプション料金が掛かってしまうも多い。当店は長年の顧客でも、オーダー初体験の若いお客様でもただ一種類の仕立て、つまり柴山登光先生が設計した本バス毛芯仕立て、天然ボタン、キュプラ100%裏地を使った、本セッパ、角台場、バルカポケットを標準装備した仕立てのみとなっている。店主であるわたしがこれが良いと確信していて私自身もこの仕様でいつも自分のスーツは仕立てている。初めての方こそ、これぞオーダーという仕上がりを体験していただきたい。

店に入っていただいたらすべて価格が表示してある店が良いと思う。東日本大震災の前だったが宮城県塩竈の寿司屋、すし哲に伺ったことがある。この店は地元の有名店なのだがきちっと値段が表示してあったので旅の者でも安心して美味い鮨を食べる事が出来た。オーダーが初めてで不安一杯でテーラーに来てさらに価格が表示していないとやはりオーダー初めての方なら心配になってしまうのではないか。だからオーダースーツ価格、オーダージャケット価格として税込の価格を服地に添付して表示している。約9割のお客様はオプション料金がいらない標準の仕様で満足いただいているので表示の価格が重要となる。

オーダー経験の無い方がテーラーに来て戸惑うのは完成のイメージができないことだろう。既製品なら見ればすぐ分るが服地しか無いとどんなスーツになるかまず分らないだろう。出来上がりをイメージするために当店では典型的なスーツ素材でゲージサンプルを仕立ててあるのでそれを着ると完成したイメージが想像しやすい。また小さなバンチサンプルを見るだけではオーダー経験の無い方がイメージするのは難しいが、当店は現物素材が豊富に展示してあるのでそれを肩からかけることで完成したスーツをイメージすることへの助けとなる。

私が二十歳の時あつらえた初めてのオーダーメイドスーツはベージュのギャバジンだった。55才になった今になって思うと初めてのオーダーでベージュははどう考えても変で、そのときの自分の思いに縛られていた故の失敗だった。初めてのオーダーにはやはりいいアドヴァイスが必要だと思う。オーダーメイドの第一歩はダークスーツから始めるのがベター。今のクラシックスーツのトレンド、お客様の体型、要望を総合的に考えお客様がいいオーダー生活を始められるようベストのアドヴァイスができるよう用意している。
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勇気をもってこの扉を開いて入ってこられたお客様にいいアドバイスをしたい。