当店でスーツ、ジャケットをオーダーいただくと、縫製の工程で服の内部にすべて本バスという馬の尻尾の芯を胸の部分にとりつけた毛芯を縫い付けて仕立てる。これは14年前からずっとそうしている。本バスというのはヨコ糸に継いだ毛や化繊などではなく本物の馬の一本毛を使ったいる物をさす。それ以前の当店の縫製仕様はもちろん毛芯だったがほんの肩の一部のみに本バスを使っていたものだった。本バス毛芯に出会った14年前の事はいまでもよく覚えている。クラシコイタリアとして注目を集めていたナポリの服をいくつか解体、分解して内部を見て調べたら胸の部分に本バスを取り付けた毛芯を使っていた事がわかった。それを再現すべくイタリアの洋服学校セコリの講師としてイタリアスーツ事情を知り尽くしていた柴山登光先生におねがいして本バス毛芯を活かすパタン作成を依頼し試作品ができあがった。


その試作品を実際着てみて、それまでの自社の物とは全く立体感が違っていたのはすぐ判った。その出来上がりのすばらしさを見て以来値段の高低を問わず当店で承ったすべてのスーツに本バス毛芯を使うことに決めて今に至っている。
(毛芯と相性がわるいコットン、リネンは除く。芯を極力減らすアンコン仕立ては本バス毛芯でなく胸に極薄の毛芯使用)本バス毛芯以前と以降の当店のスーツはグレードは全く変わることとなった。毛芯は洋服においていわば「基礎」。建築でも基礎がしっかりしていると良い建物ができる。洋服の場合、お値段の高い本バス毛芯は形崩れしないという利点以上に胸のボリュームが立体的になるというところがこれを使った本当の意義。 服の中身のことは一般の方はほとんど知識はない。でもお客様が知らないからといってこの部分をおろそかにせず、コストを掛けて本バス毛芯のような良い材料を使うとジャケットの見栄えは本当に良くなる。

この土日は納品のお客様が20人以上来店いただいた。ほとんどすべてのお客様に出来上がった服を試着していたいたのだが、みなさま、ジャケットの胸の立体的な出来上がりに喜んでいただいた。14年前にすべてのお客様に本バス仕立てにすることにした選択はまちがいなかったとあらためて思っている。

honbas
ヨコ糸ウール100%、タテ糸は伸びないコットンをつかった薄い毛芯に胸の部分の本バス芯をハ刺しミシンで縫い付けている。これをスーツにハ刺しミシンで縫い付けると立体感のあるジャケットになる。それは本バス芯がヨコに強いハリがあるから。