年もおしせまり、忙しい気分が巷にはあふれているが当店はというと、納品のお客さまはおおくいらっしゃっても、秋冬のオーダーは一段落して、静かな店内だった。だから棚の整理をすることにした。棚の中に乱雑に入っている写真を並べていると一枚の写真がでてきた。

それを見ていつの写真がどこで撮ったのかすぐ思い出した。それは19年前、縫製会社の社長ハマダさんと重役コバヤシさんとピッティウォモに行った時の写真だった。フィレンツェサンタ・マリア・ノヴェッラ駅近くの通りに面した料理屋「ジューリオ・ロッソ」のなかでの一枚だが実はこの写真はぼくの人生にとってとても重要な瞬間だった。私どものスーツ、ジャケット、パンツ、コートなどすべて設計し、縫製も監督している柴山登光先生と初めてあった時の写真だ。柴山登光先生は多くの有名セレクトショップ、有名工場の技術指導をしているいまや日本最高のモデリストとして日本国内のみならず、イタリアの縫製工場も指導しているいわば世界的なマエストロである。この写真は先生53歳頃の写真でまだ青年の雰囲気。このときはまだ先生の素晴らしさに気づかず、どちらかというと初めて会ってとげとげしさすら感じたのを覚えている。それから数年後、先生が設計した本バス毛芯のスーツのモデルの試作品を見て、ウェストの絞り、肩のドレープ感、立体感などいままで縫製上で抱えていた問題がその試作品で解決していた。それを目の当たりにして当店の扱うスーツはすべてその本バス毛芯を使ったモデルにすることを即座に決断した。

この縁を取り持ったハマダさんももうこの世にはいない。きっとぼくがずっと柴山登光デザインのオーダースーツを扱い続けていることをきっと喜んでくれているだろう。
primavolta
一番右が若き日の柴山先生、わたしもこのときまだ40そこそこです。