ずっと音楽を愛好する中で今はアメリカのポピュラー音楽を聞き、こっそり演奏したりしています。齢30のころはブルースやロックのスリーコード偏重に飽きて、めくるめくリズムと美しいメロディのブラジル音楽に傾倒したことがありました。そのなかでもジョアン・ジルベルトには深くのめり込みました。ネットで同好の士を募り、東京や名古屋でオフ会をした楽しい思い出も残りました。
そんなころ知り合ったブラジルポピュラー音楽の巨人、ジルベルト・ジルが東京、京都でライブをすることを知りました。ジルベルト・ジルは10年くらい前だったか、ブラジルの文部大臣として働きに来ているブラジル人の多い愛知の、それも当店の近所のオアシス21で無料ライブをしたことがありました。それは秋の土曜の午後で当店が忙しい時間帯。泣く泣くスルーした記憶があります。今回は是非行きたいと京都ロームシアターでのチケットを取りました。
それだけで京都に行くのはもったいないのでなにかほかにイヴェントはないかと調べましたが京都にはめぼしいイベントもなく、神戸でジュルジョデキリコ展を見つけました。ジュルジョデキリコ展といえば2001年友人のアートディーラーQ氏が尽力して東急文化村などで開催したのです。彼の友人の世界的コレクターの所有するジュルジョデキリコの作品やイタリア国家がもつ作品など日本に集結するのを手伝ったようです。
そして今年6月フィレンツェ、メディチリカルディ宮でのオルフェウス神話についての展覧会でジュルジュドキリコの一枚を見たこともありそういうちょっとした縁を感じながら展覧会場に行きました。
会場は三宮駅から近く、大手銀行の古い厳格な建物をリノベーションした神戸市立博物館。シュルレアリスムにも近かったジュルジョデキリコの不思議な絵に浸りました。どこか郷愁をそそるキリコの名品が揃い、ゆっくりイタリアの知っている景色を重ねながらキリコの人生を俯瞰しました。
それから京都への移動は、JR一本で電車に揺られゆっくり読書でもしながらと考えたのですが、途中で事故があり、その列車は大阪までしか行かず、急遽、梅田から新大阪まで地下鉄、新幹線で新大阪から京都と、やっとの思いで会場のロームシアターに着きました。ジルベルト・ジルはジョアン・ジルベルトがジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾと共演した名盤「ブラジル」以外には「アコースティック」というライブ盤一枚しかもっていなかったので、ほとんど前知識が少ないままライブに。ステージに現れたのはジルベルト・ジルと彼の子どもと孫のバンド。CD「アコースティック」で聞く全盛期のつややかな声よりすこしかすれてはいるものの自由闊達な声はとても80歳越えとは思えぬすばらしさ。
レゲエやポップスのスタンダードナンバーを織り交ぜながらも彼のオリジナルナンバーを歌うと客席から大きなコーラスが聞こえてきました。日本で働くブラジル人たちです。ブラジル音楽のライブに出かけると、お好みの曲がかかるとステージのミュージシャンと合わせてブラジル人観客が歌うのが相場。ライブをこころから楽しんでいるのがわかりぼくは嫌いじゃありませんが、ジョアン・ジルベルトはあまり好まなかったとも聞いています。
ブラジルのポピュラー音楽はメロディが複雑なものもおおいのですが、ブラジル人観客の歌も達者でどんどんついてきます。そのグルーブも面白く、2時間たっぷり楽しめました。