石段を昇るとそこは至高の聖地。

元旦に伊勢神宮に出かけるようになって30年近くになりました。早朝電車で名古屋から行くとはいっても江戸時代、身命を賭して一生に一回歩いて伊勢参りに行くのとは比較にならないほど楽なのはもちろん解っています。以前は物見遊山的で、参拝完了後のおかげ横丁での手こね寿司が楽しみだったこともありますが、今はほぼ豊受大神宮から神宮(内宮)に行きほぼトンボ返りとなり我が家の行事ならぬ行と化しています。

近鉄名古屋駅出発ひのとりに乗り、伊勢市駅には3時40分頃着、それから徒歩で豊受大神宮に向かいます。ちょうどこの時間は豊受大神宮では1年の最初の神事、歳旦祭が行われます。年の始めを寿ぎ、皇室の弥栄・五穀の豊穣・国家の隆昌・国民の平安をお祈りする新年最初のお祭りで、若水をはじめ、御飯・御酒・海・川・山・野の種々の神饌をお供えします。まだ太陽が昇る前の真っ暗な闇を神職達が石畳の音を立てながら本殿に入ります。一般人は入ることができず、中からかすかに笙の音が聞こえるのが神秘的な空気を伝えます。われわれは本殿外で焚かれる火で暖をとりながら、この崇高な儀式のあとの参拝を待ちます。

神宮は自分のことは祈らず、日本全体の幸せを祈る場所。
昨年2月から始まったウクライナでの戦争はグローバル時代の今、国と国のパワーバランス、エネルギー問題など日本にとって決して対岸の火事ではありません。日本も経済、安全保障など問題が山積しています。メディアは権力批判の錦の御旗のもと自分たちはなにもしないしできないのに、政府の批判ばかりで足をひっぱりつづけています。コロナが落ち着いてきた今、情報を読み解く力、リテラシーをしっかり持ち、襟を正して頑張って前に進みたい。我々も微力ながら日本を良くするお手伝いをしたい。そんな思いで神前に立ちました。

そして日本で一番高貴で聖なるこの場所に行くのにいつも正装しています。今年もロロピアーナタスマニアンのスーツ、ロロピアーナ素材で仕立てた白のドレスシャツ、アンジェロフスコのグレーソリッドタイ。毎年のことではありますが、オトコの正装である洋服を今年始めて着る、「ふくはじめ」の儀式です。

洋服屋としての新年がはじまりました。ことしもよろしくおねがいもうしあげます。

ひのとりで近鉄名古屋駅から伊勢市駅まで
歳旦祭
揺らめく炎で暖をとる
ふくはじめ
神宮の天上には北斗七星が輝く。