真の天才、カラヴァッジョの絵を見るのにどんな苦労をしてきたか。もちろんローマ、フィレンツェ、ミラノ、ローマ、パリの美術館等にある絵を見ることは造作ない。ただエルミタージュ美術館にある一枚を見に行くために飛行機、列車を乗り継ぐだけでなくロシア専門の旅行者に通訳までお願いした。シチリアにある3枚(これはまず海外に渡ることはない。)を見るために2度飛行機を乗り継ぎ、空港からはタクシーも雇い、遠い街まで見に行った。
そんな16世紀に生き、バロック美術に強い影響を残したカラヴァッジョの絵がなんと名古屋にやってきた。われわれ夫婦は今回は飛行機のかわりに、会場の白川公園まで自転車でむかった。
名古屋、愛知は今月半ばまで、東京のいわゆる文化人によってありもしない「不自由」をでっちあげられ、いわば蹂躙され続けたが、会期が終わり、おだやかな初冬がはじまった。
人類の至宝ともいうべきカラヴァッジョ展が先週、名古屋市美術館で始まった。個人蔵やボルゲーゼ美術館の所蔵の小品でけっしてマスターピース(作家としての傑作)ではない。とはいえやはり天才。他の画家が真似しても、寄せ付けないすばらしさがある。
カラヴァッジョは筆の跡も見せないレオナルド・ダ・ビンチのような筆致を見せない「スフマート」の技法は使わず、普通の油絵の画法。それなのにガラスの容器に入った、澄んだ水のたたずまいをさらっと表現する。今回展示にあるものにもそんな天才の足跡を十分みてとれる。天才の証をもう一つ、複数の人が一つの絵にいるレイアウトの場合カラヴァッジョはその視線で重要なメッセージを示唆する。並の画家はそれがバラバラになるのだ。
そんな世紀の天才の作品が名古屋で見られる。ぜひ足をはこばれることをおすすめします。