昨日、数年ぶりにタニノクリスチーの内羽根式茶靴を履いてみた。シューキーパーをいれ大事に靴箱にいれたまま本当にたまにしかはかない。19年前ロロピアーナ社の招待でイタリアにはじめて行った際、ローマのスペイン階段の上からまっすぐ伸びる街一番の通りであるコンドッティ通りに有ったタニノクリスチーの店で買った。当時はミラノのモンテナポレオーネにもフィレンツェのトルナブオーニにも立派なショップがあってイタリアで一番人気のある靴のひとつだった。イタリアでは店に入った以上「見てるだけ」は基本的に御法度。現地でヴェットリーナといわれるショーウインドウで外からしっかりお目当ての靴を確かめ重いドアを開けて店に入り男の店員にぼくに合うサイズのショーウインドーにあるこのをだしてくれといって勧められたのをそのまま買った。あのころはまだユーロも無くリラで払ったがたしか日本円で3万五千円ちょっとでなんだか輸入靴が高くなった今となって思えば良い買い物だった。イタリアから帰って年長のイトコで親しかった故大塚勝彦氏に見せて自慢したとき彼は俺はモレスキがすきだなと言っていたのを覚えている。極めて柔らかい良質の革を使っているせいか時々手入れだけしただけで歳月が経過しても買った当時のフォルムと素材感がそのまま保たれている。その間にクラシックスタイルブームでレースアップの靴の地位向上があり、尖った靴とか四角い靴とかさまざまな流行があったが丸みのあるフォルムは流行を越えたエレガントさがある。造りは通常グッドイヤーウェルトと比べ下位に置かれるマッケイだがこれはまちがいなく最上クラスのマッケイだと思われる独特のはきごこち。とても残念だが昨年タニノクリスチーは日本を撤退し本国でも廃業したと聞いた。妻もグリンのモンクストラップとパンプスの2足、母は名品ジョッパーズブーツを含め3足も持っていてとても残念がっていた。そんなちょっと悲しいニュースを聞いてさらに大事にしようと考えている。