さしたる才能もなく身体能力もないわたしのような凡人にはゴルフは因果なスポーツだ。手にマメをこしらえ腰を痛めたりしながら何年ドライビングレンジに通い詰めても上手くならない。もうどうなってもいいと達観して、体全体の力を抜いてゆっくりスイングしようと思っても目の前に白い球があると頭のどこかでガツんと叩き付けてやろうと思っているのか力んで強く振ってしまう。そうすると結果は最悪。パットもだいたい入らない。これをはずすとゲームが壊れてしまうというパットの前にはこころも固くなり運良く入ったとしても爽快さというよりやれやれという気分が残る。はじめはそんなゴルフをすこしは上手くなろうと友達のシモちゃんと始めた土曜の朝練だったが、シモちゃんは上手くなったがわたしはといえばほとんど変わらないというよりむしろ退化している。そう思いながらだらだらつづけている朝練なので誰も見ている人はいないかとも思いついついドライビングレンジに行く服装も上から下までユニクロという気の抜けた有様になってくる。でも今日は珍しく朝6時半から上はアディタスのグレンチェックのウインドブレーカ、ルコックスポルティフのマルタ十字のついたシャツにこれまたアディタスのお気に入りのゴルフ用エキストラスリムのパンツにリンドバーグのベルトというすぐにでもラウンドできる出で立ちで練習に向かった。こうなると下がり切ったテンションも少しは上がったのか不思議にも良いショットが打てる。ああ装いとはそういうものか、外見に気を使えば人のもつポテンシャルを上げることができるのかと得心。洋服とはただただ寒さを防ぐものでなくいかに装うかによってこころを高める効果がある事をふと思う。洋服屋という私の天職も無駄な仕事ではなくもともと備わっている人のチカラを「装う」ことによって盛り上げる事のお手伝いをしているのではないかとも考えられなくもない。今日は土曜日。寒さが日本に到来した週末なので来店のお客様も多いはず。この秋仕立てたミユキ毛織のセーターのような表面感のジャケットをおろし、お気に入りのロロピアーナのカシミア100%のネイビーのソリッドタイを締め、フィレンツェで買ったチェレリーニのベルトとトレーディングポストで買った黒のスエード靴を選んだ。ミネルバのアンティークウォッチを久しぶりにすると秋の気分が盛り上がる。偽装などのことばに「装」の字が使われているため外見だけとりつくろうという意味が有ると思う方もあるとはおもうが外見に気を使う事によって内面を向上させるという効果もきっとある。そんな意味を感じて今日もテーラーという仕事にとりかかろう。装う事のその意味をこころに噛み締めながら。
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今年仕立てたミユキ毛織素材のジャケットを着てみる。当店ではロロピアーナの素材に人気があるが今年のミユキもなかなかのものだと思う。