旅はひとが原点に帰ってもう一度出発しようと思わせる。そんな効果がある気がする。見知らぬところにいってみたい、見知らぬ人に会いたい。それもわかる。でも旅のみちすがら安住できる場所に見つけたとしたらもう一度そこに戻りたい、そんな気持ちになることがある。それがお気に入りの土地であり、宿で言うと「常宿」(じょうやど)といえるだろう。山代温泉「あらや滔々庵」はまさにそんな宿。安らぎがほしいときに一番に行きたくなるところ。過剰でないさりげないサービス。部屋数が多くないためいつもここには落ち着いた空気が流れている。こころづくし食事。そして良質な温泉。もう私にはここだけで十分。

今回は母を誘い二人で出かけた。行きの道の越前大野では里芋を買い、中心近くの御清水(おしょうず)でペットボトルに水を汲み、大好きな梅林で、きのこのおでんと、大根おろしたっぷりの越前そばに舌鼓を打つ。 

大野から山代温泉までは一時間とすこし。山代温泉の真ん中、湯の曲げ輪、古総湯の真ん前にあるあらや滔々庵に一歩踏み入れた瞬間から優しい空気が流れ、全館すべて畳敷きの足元からもそれは感じる。 部屋に入ってすこし散歩したあと暖かい源泉とぬるい源泉の2つの泉質が味わえる「烏の湯」入った瞬間、からだから疲れが抜け出ていく気がする。暖かい、ぬるいを何度か繰り返すと体の芯まであたたまる。外にでると冷えたカヴァとコントレックスが用意してある。これを交互に飲むとなんだかひとりで自然にハイ状態。部屋に戻ってゆっくり読書なんぞ、うたた寝なんぞ。普通の日々の午後にはなかなかしないこと。

お食事も至福のとき。地元産の食材をシンプルそして巧みに料理した皿の数々は舌だけでなく目にもしあわせ。お酒をいただくと食事をしたら眠たくなる。ストレスとは無縁の時間が流れるこの宿には音楽も映像もないが北大路魯山人作の陶器の数々とともに、ただただ贅沢な空気だけが存在する。朝も起きてから何度も温泉に入っているともう出発の時間。ああこの時間のなんと短いことか。

あらや滔々庵のお値段はこのサイトに書いてある。感じ方はひとそれぞれだが私はけして高いと思わない。 おふくろまた春雪解けのころにはまたここに来ようね。それまで仕事がんばります。
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越前大野 梅林 きのこのおでん
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梅林 越前そば
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大野 農家の青豆豆腐で里芋をしこむ。
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山代温泉 あらや滔々庵
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部屋にはさりげなくコルビュジェ
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左がぬるい湯、右があつい湯の 烏の湯
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温泉のあとのカヴァが楽しみ。
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夕餉は蟹の酢の物と菊花がうかんだ酒ではじまる。
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八寸
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のどぐろの焼き物
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蒸し鮑
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しめは酒の親子飯
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あらや滔々庵に展示してある魯山人でこれがお気に入り。
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帰りには加賀元気村で加賀野菜をたっぷり買いました。