オーダーサロンタナカのスーツは水牛の角、象牙椰子を削ったナット、高瀬貝、白蝶貝などシェルボタンなど天然素材ボタンしか使わない。(メタルボタンは除く。)実のところ本物の水牛に近いプラスチック性のボタンや貝に似たプラスチックのボタンはたくさん世の中にあり市場に出回っている。しかし人間はすごいものでそれが本物かニセモノかは一見してすぐわかってしまう。たとえお客さんがボタンに詳しくなくてあえてボタンの指定をしていなくてもわたしに水牛や貝に似たいわばニセモノのボタンを知らん顔して付けることはぼくはできない。だってすぐわかってしまうことだから。確かにプラスチック樹脂のボタンは水牛と比べると欠けにくいかもしれない。だからといってプラスチックを選ぶのはクラシック=正統な服とは言えない気がする。逆説的に言うと欠けことがあるから良い素材なのだ。
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当店のスーツの標準装備の水牛ボタン

私どもはなるべく芯やパットを減らすアンコン仕立てをのぞいて、すべてのウールで作るスーツ・ジャケットの上着の胸のオモテ地と裏地の間の内部には本バス毛芯を縫い付けて(芯据え)使う。馬の尻尾の毛を使った本バス芯は横方向にハリがあり胸のボリュームがでる。フェルトや不織布を熱で溶ける接着剤で貼るいわゆる接着芯で仕立てたスーツと本バス芯を縫いつけて仕立てたスーツとでは普通の人でもその立体感、ボリューム感の違いでわかる。本バス芯を縫いつけて仕立てたスーツにはどこかしら「高級感」があるのが認識できるはず。人間の認識能力は素晴らしいと言わざるを得ない。
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一日朝からずっと着て午後7時に自撮りした当店のスーツ。胸の立体感はなにも損なわれていないのが本バス芯の力にほかならない。
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腕にシワがあるのでずっと着用していたことはわかるはず。でも胸の立体感は変わらない。
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この本バス毛芯を使わないスーツはぼくには考えられない。