昨年4月の中頃はじめて吉野に行きとても良かったので、今年はそれより一週間前ならさらに桜もうつくしかろうとこの水曜妻もつれて近鉄電車で吉野をめざした。名張あたりの車窓からは満開の桜を見るとわざわざ遠い吉野までいかなくてもこのあたりでもいいとも思ったがやはり吉野は桜の咲く聖地である。在任中30回以上吉野に出かけたという天皇もいたほど魅力的なのだろう。

ヤフーの天気予報では前日まで天気マークが出ていたのに当日には雨に更新で予報の通り朝にあいにくの小雨。吉野は日本有数の多雨地帯でこれはもうしょうがない、傘をさしながら観桜としゃれこむかと諦めた。近鉄吉野駅からロープウェイで登ると吉野を堪能するためにはずっと馬の背のような尾根道を登り続けなければならない。ロープウェイ近くの駐車場でおろされたバスツアーのお客さんの多くは吉野のほぼ真ん中にある中千本までも到着せずに疲れ果て時間もなくなり帰路につくこととなる。わたしは昨年同様、バスで中千本を経由し上千本金ぷ神社ふもとまで登りきってそこからずっと下り道で下にひろがる吉野の桜を今回も目指すこととなった。

バスを降りた時、折からの寒波と春まだ寒い吉野の山には残雪もあったほど。そぼ降る雨に手はかじかみ、下り道を行くこと20分やっと水分神社に着く。そして花矢倉展望台から眼下に広がる桜を見ようと思ったらガスで視界は全くなくホワイトアウトの状態。妻がチビタみたいだとつぶやいた言葉にこの一月イタリアでも同じ光景が目の前に広がった事を思い出した。まあ気分転換に来たんだと気を取り直して山を下る。上千本地区から上千本にかけての曲がりくねった舗装の坂道の脇にはそれは多くの桜が植えられ、微妙な色の違いを楽しむことができる。やはり咲く桜は雨の中でもけなげに咲き、その可愛い花の姿に冷えきった身体も元気を取り戻してきた。ふと如意輪寺までという看板を見かけ、粋狂にも山道ふさわしくないスニーカー履きにもかまわず、泥道や水たまりもある脇道に分け入ってみた。そこには観桜の人ごみもなく静謐で清らかな気が満ちた場所だった。いずれは大河の吉野川になるだろう小川がながれる谷を木橋で越え、何処へ続くか判らない小径を往くと霧が晴れて谷に群れ咲く桜が目に入って来た。さっき桜の花が霧にかくれ全く見えなかったときには塞いでいたこころもすっかり上向き、吉野の山に遊ぶ貴き方々の気持ちもわかるようになってきたらもう如意輪寺も目の前。この寺にある後醍醐天皇陵には吉野に来たら参拝したい場所だった。天皇陵に手を合わせ、如意輪寺の宝物殿で楠木正之の辞世の句を見て、庵に入るとここから谷向こうの山に咲く桜が視界一杯に広がって来た。庵の中ではタイからの敬虔な仏教徒たちが瞑想していた。

如意輪寺を出て再び谷を越え、団体客の多い大通りに戻る。冷えきった身体を休めるべく吉水神社脇の柿の葉寿司店醍与で日本酒一合いただきながらはらごしらえ。吉水神社は南朝の皇居でもあった日本最古の書院の中にはいると空海からはじまり源義経、静御前、弁慶、後醍醐天皇、豊臣秀吉、一休禅師などゆかりの空間や品物がある上、吉野随一の桜とも言える一目千本の桜の名所でもあるコンテンツの濃い日本史上の特異点でもある。ここを見てから蔵王堂で、仏のもうひとつの姿であるといわれる恐ろしくも巨大な三体の蒼き蔵王像を眺めると懺悔の気持ちが起きる。

やはり2度目の吉野はより深い経験が出来たような気がする。それが気にいった場所に再び訪れる再訪という行為のたのしみでもある。 
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バスに二度乗り継ぎ、ついた金峯神社前。残雪が残り寒さ格別。ここからはいわいる吉野はイメージできない。
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ここから下り、水分神社を目指す道すがら見える美林。
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雨の中けなげにさくさくらも愛らしい。水分神社までの道にて。
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この世の桜かあの世の桜か、水分神社。
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吉野随一の観桜ポイント花矢倉もミルク色に満ちる。
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花矢倉から降りると道に桜咲く。
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寒さに耐えながらも誰もいない小径を歩くのがうれしい。
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小径の脇にさく花を愛でながら。
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いずれは大河になるだろう小川を渡るのも都会暮らしのわたしたちには美しい体験。
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すると目の前一杯にこんな桜の屏風が。ああ吉野にきてよかった。
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山道を歩き着いた如意輪寺にある後醍醐天皇陵
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如意輪寺の庵からみる桜。柱で四角く切り取られた眺めもいいものだ。
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山道から人のあふれる参道に戻る。やはり僕たちが分け入った小径とは世界が違う。
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南朝皇居のあった吉水神社の桜はやはり別世界の感あり。
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後醍醐天皇の座の脇には書院造りの必須ディテールである違い棚が。