フィレンツェからローマに着き次の朝はナポリに行く事にした。これでナポリは三度目となる。十数年前が初めていったのだがそのときはすぐ下のいまはきんぼしをやっている弟がイタリアに行きたいと言って連れて行った際、ローマで風邪をこじらせナポリメルジェリーナ駅に着いて海を見ただけで「あー熱海に似てる、うう。」という迷言を残しすぐに弟は体調不良ゆえきびすを返しローマに戻り一人残された僕は何も情報のないままナポリを歩いてさまよったのが最初のナポリ体験。もうそんな悲しい思いはしないぞと今度はカラヴァッジョへの巡礼の旅と目的を純化した。危ない街と喧伝されるため、事前に場所を調べてルートを決め所持品を減らした。ナポリだけガイドさんを付けるという手もあったがそれもコストが掛かるし旅はじぶんたちだけで歩かなきゃあ楽しくない。
ローマテルミニ駅からナポリ中央駅まではフレッチャロッサでたった一時間、ナポリ駅に着いたら駅がモダンに美しくなり驚いた。すぐにタクシーに乗りピオモンテミゼリコルディア教会に向かう。運転手がそんな教会知らないと言うのでああ、いきなりナポリのブラックサイドが来たかと覚悟したがカラヴァッジョで有名と言うと分かってくれてすぐ近くまでつれていってくれた。教会は細い裏道に建つイタリアにしてはめただない建物。中は美術館として整備されていて入場券を買ったらキレイなナポリ女性が教会の内部まで案内してくれた。そしてお目当てのカラヴァッジョ「慈悲の七つの行い」の前にたつ。複雑の構図の絵には、巡礼者に宿屋を教える、水を与える、罪人に食べ物を与える、病人を見舞う、足の悪い人に衣服を与える。死者を埋葬するなど慈悲心に基づいた行為が描かれている。影と光の表現を開拓したカラヴァッジョの絵画のなかで光源が書き込まれた唯一の絵としてもしられている。絵を照らすランプもそなえつけられ解説のCGもあって判りやすくじっくりナポリで制作されたこの大作を堪能した。2階には美術館もある充実した教会だった。
小径にピオモンテミゼリコルディア教会
ピオモンテミゼリコルディア教会の中庭
ピオモンテミゼリコルディア教会近くでみつけた不思議な古道具店
そして次にカポディモンテ美術館に向かう。イタリアでは流しのタクシーを拾う事はまずなくタクシー乗り場でタクシーに乗るが案外そのタクシー乗り場が探せないことがある。しかしありがたいことにすぐタクシー乗り場がみつかりそこから車で15分くらいの山の上の美術館に向かい、喧噪の街ナポリを縫うようにタクシーはすすんだ。カポティモンテ美術館は丘の上の庭園に建つナポリ特有の赤い壁の大きな建物。ヤシの木がはえ南国情緒がある。平日なので美術館はお客さんは極めて少ない。おめあてのカラヴァッジョ「キリストの笞打ち」以外にも、ファルネーゼコレクションで所蔵の絵画もとても充実している。宮殿の階3つを使い、沢山の部屋が有るため、あらかじめ有名な絵の部屋番号は押さえておいたのでスムーズにみることができた。「キリストの笞打ち」は思っていたより大きな絵でヴァイオレンスな表現なのに静けさが絵に満ちているのはカラヴァッジョの絵のすばらしさだ。むち打つ人は恐ろしい顔をしているがなぜかキリストは落ち着いた顔をしているのが印象的。絵の前でまるでこの出来事が実際に目の前で起きているかのように見入ってしまった。
豪壮な赤いパラッツオと南国の木が印象的なカポディモンテ美術館
カポディモンテ美術館前の苔むした噴水。
カポディモンテ美術館は丘の上にあり遠くカプリ島が見える。
マザッチョのキリスト磔刑図。したのマクダラのマリアの動きがユニーク。カポディモンテ美術館
ダナエ カポディモンテ美術館
パルミジャニーノ「貴婦人の肖像(アンテア)」これは日本に来た事がある。カポディモンテ美術館
たぶんブロンジーノ カポディモンテ美術館
いいなとおもったらやはりアントニオカノーヴァ カポディモンテ美術館
カポディモンテ美術館の宝、人類の宝。カラヴァッジョ キリストの笞打ち
私はナポリにはカラバッジョはこの2枚しか無いと思っていたら妻はもう一枚あるはずという。駅のインフォメーションセンターでもらった地図にプレビシート広場という美しい広場の近くにそれらしい名前の建物がのっていたのでとりあえずいくことにする。プレビシート広場は円形のサンピエトロ広場とパンテオンの良いとこ取りをしたような美しい広場、その近くのカフェが有ったのでいただくとキリッとしたバリスタが丁寧にカプチーノを入れてくれ、味わいもまさにグッジョブ!それを北に行くと左側が洗濯物を建物と建物の間に干してある通称ナポリの旗で有名なスペイン人地区である目抜き通りがトレド通り。建物を探しに通りをあるくとなぜか宙に浮くインドの聖人をみつける。マジックだとは思うがなんだか目がくらくらしてくる。ほどなくして パラッツォ・ゼヴァロス・スティリアーノ美術館の建物が見つかり看板にカラバッジョの絵が書かれていたのですぐさま入る事に。そこにあったのはウルスラの殉教というカラヴァッジョの遺作となる大作だった。暗い画面の中心に位置する美しい女性の胸には一筋の光のような矢が刺さっている。美しい女性は驚く訳でもなくそれを自分の運命であるかのように傷口を静かな悲しげなまさざしで見つめている。カラヴァッジョについての著書が多い宮下規久朗氏の本を妻は繰り返し読んでいて絵の状況をくわしくおしえてくれた。美しい女性の後ろには自分の運命に重ね合わせたのか虚空をさまよう目をしたカラバッジョの自画像が書かれている。目の前に凄惨な事件が起こっているのをなぜか静かなゆっくりした時間が流れている不思議な絵。ナポリの喧噪あふれた街にある静かな美術館でほかに誰もいなくてこういうすばらしい時間をすごす。ああなんか巡礼の旅にきてよかった、三枚の絵にはまるで導かれるようにスムーズに出会う事が出来たことが不思議な気すらした。
プレシビート広場近くの大きカフェでカプチーノ
ミラノのガレリアにそっくりのウンベルト二世のガレリア
パラッツォ・ゼヴァロス・スティリアーノ美術館 トレド通りによったら行ってみてください。
カラバッジョの最後の作品 ウルスラの殉教 パラッツォ・ゼヴァロス・スティリアーノ美術館
宙に浮く聖者 トレド通り
陽気なナポレターノになんで浮いてるの??と訊ねる。そりゃ腕の力さと。そう?
カラヴァッジョさえみられれば食事もなしでいいともおもったが時間も昼過ぎでお腹も減って来た。ナポリはピッツアだけでなく世界に冠たる美食都市であり基本的に肉食のイタリアではめずらしい魚料理がうまい街でもある。どこかいいトラットリアをおしえてと美術館員の女性に訪ね、美術館の近所のトラットリア「マリノ」を教えてもらった。 スペイン人地区の入り口に位置するそのトラットリアは想像したよりカジュアルな感じだった。でもスタッフも明るくていい感じ。すぐ席を用意してくれた。アンティパストとして出て来たカプレーゼはたぶん地元産の水牛のモッツアレッラがどーんと出てくる。そして白ワインが妙にフレッシュでお魚のパスタにばっちり合い何を食べても旨い。若々しいスタッフばかりの楽しい店で隣に座ったジェントルマンにもワインの勢いも借りてナポリ談議に。おおキトン着てるねーって冗談でいったらキトンより上手な職人さんに半額で仕立ててもらったと言っていた。ナポリ人は洋服をたのしんでいるんだなあ。
スペイン人地区にあるトラットリアマリノ
白ワインとカプレーゼ。こういうのがカプレーゼだあ!!
イワシのパスタ。なまぐささが妙に食欲をそそる。
となりにすわったナポリ人銀行家と洋服談議。スーツは世界の共通語
おーモルトカリーナ!@!@!
それからカステロヌオーバ、ナポリの有名な海岸通カラッチョロ通、基礎に卵が埋まっていると伝説のある卵城も散歩して、仕上げにおしゃれなジェラート屋さんでナポリのスイーツを楽しんだ。危険とか汚いとかいわれるナポリだがまずひとびとの笑顔が
素敵、性格が素敵、偶然隣り合わせた人でもなんか話せちゃういい雰囲気。そして若い女性はみんなキュート。美しく楽しい街ナポリをねたんでいるのか南への一種の差別なのかフィレンツェ人やローマ人にナポリに行くというと危険だとか泥棒だらけだから気をつけろとかの話ばかり。しかし今回の旅は親切なナポリ人ばかり出会っていやな思いなどなにひとつない。ねえちゃんもイタリアのなかで一番キレイ。きっとぼくらはナポリに愛されたのだろう。すばらしい出来事ばかりだった。ヴィヴァ、冬のナポリ!ローマに帰ってテルミニ駅からタクシーに乗ったら悪い運転手に当たって歩いて15分しかかからない場所に行くのに20ユーロもぼったくられた!イタリア語で文句をいったがあんまり攻撃して逆切れされてもこまるのでまあ払ってやったが腹が立つ。ああローマが焼きもち焼いたんだねきっと。
babaってのはナポリっこ大好きなサバラン
建物はだいたい赤く塗られている。
カラッチョロ通りで卵城をのぞむ
卵城からナポリの街を望む
要塞である卵城の窓からヨットハーバーが見える。
美しい女性がひとりできりもりするジェラート屋。えー娘やねえ。