ナポリではマリネッラ、ローマではペリカーノ、ジェノバでフィノーロ、フィレンツェでエルミニ、ミラノでフスコなどイタリアでは街に尊敬される街の人のためのネクタイ専門店があり、街のエレガンスを支えている。もちろんサルト、つまりテーラーも当然そうだ。地元に住み、地元の人の洋服を仕立てる文化がイタリアには根付いていた。しかしハンドメイドのサルトは生産効率は低いし売価は極めて高額となる。イタリアの不安定な政治のせいで優秀なサルトを育てる徒弟制が風前の灯となってしまった今、イタリアでもス・ミズーラ、英国ならMADE TO MEASUREつまり工場生産のオーダーが現在は主力となっている。当店は美しいスーツが品質のばらつきなく安定的に仕立て上がる工場生産の良さに早くから注目してすべて当店のオーダーはこの方式でおこなっている。ずっとこの仕事を始めてから接着縫製でない35年来ずっと1か所の日本国内にある毛芯縫製専用の優秀な工場に縫製を依頼している。
現在低価格のオーダー店は中国の縫製工場で縫われることも多い。だが当店は少しくらいコストが高くつくとも日本国内の縫製工場で仕立てるほうがいいと考えている。その理由は2つ、縫製工場に依頼する際には工場と店とのコミュニケーションが重要。その際国内工場だ意思疎通が同じ日本語を使いスムーズ。もう一つの理由は、離れたところで縫製すると乾燥した大陸性気候と湿度の高い日本の気候との違いで洋服にも納品後、縫い目が波打つことがある。ずっと日本国内縫製にこだわっているのは偏狭なナショナリズムとは違い、日本文化を理解した上で西欧の洋服文化を取り入れる努力を続けている国内の縫製工場の姿勢をリスペクトしているから。日本の縫製工場は研究開発を重要視してまじめに技術の導入にとりくみ、世界最高と称されるイタリアの縫製とも遜色ないレベルに達している。日本マーケットのトレンドへの早い対応も力強い。また工場と専門店の間の移動は国内なので便利な佐川やヤマト宅急便を使えるのでやはりメリットは大きい。
毛織物は地産地消ではない。
ではスーツ素材、ジャケット素材など毛織物は地産地消かというとそうでなない。豊かな水という風土と大きな生産設備、そして蓄積されたノウハウが毛織物には必要。また大規模な工場から生産される数量は地域で消費される分をはるかに超えている。世界でも限られた地域イタリアではビエラ、英国はハダスフィルド、日本では尾州といわれる尾張一宮周辺とそこにある工場から世界に供給されている。
CADでサイズデータを入力。(国内縫製工場にて)
入力したデータに基づき服地をカット(国内縫製工場にて)
CADで裁断されたパーツ(国内縫製工場にて)
実は工場内も手作業も多い。これはパンツのクセ取り工程。これはすべて手で行っている。(国内縫製工場にて)