コロナ禍でサプライチェーンにもほころびが。

先日のこと。ウェブで調べて家電量販店にプリンターを買いに行きました。ひんぱんなインク交換に辟易していたのでお目当ての機種はインクのタンクが大きいもの。それを探したが店頭にありません。いつ入るかも未定だという。もちろん日本メーカーのものだがどうやら本体は中国製でコロナの影響でいつ入ってくるかわからないそう。友人のセキドに聞くと、建築関係でもトイレバス設備関係は日本製でも小さなパーツが中国製の場合が多く、欠品が多く、苦労したとのこと。コストが安いことで21世紀に入って日本メーカーのほとんどが中国生産になんらかの形で移行しました。コロナ禍で苦しむいま、サプライチェーンの滞りでそのツケがでてきています。

さてオーダーの業界では。

さてこの傾向、われわれの業界はどうかというと日本の代表的毛織物メーカーのひとつ、ダイドーリミテッドは毛織物の生産のほとんどを中国に移行しました。オーダースーツでも価格を下げるため中国の縫製工場でつくるメーカーもアパレル大手中心に増えてきました。当店へも客さんに安く売れるのでオーダースーツ、オーダーシャツの中国縫製を扱ったらどうですかという業者からの誘いもありました。もちろん断りましたが。

本来、オーダーメイドは地産地消。

かってオーダーメイドは職人さんをかかえた地元のテーラーが担っていました。街で評判のテーラーには沢山仕事が来て繁盛していました。そんなテーラーに服地を供給していたのがオーダーサロンタナカの前身の「田中羅紗店」。イタリアではいまでも地元のテーラーが頑張っているのは長谷川喜美さん著「サルトリアイタリアーナ」でもわかります。本に最初にでてくるピエモンテ州の地元で腕のいいテーラーであるバルベリスさんに仕立ててもらうため順番を1年以上待つんだとロロ・ピアーナの工場で聞いたことがあります。日本では1970年以降、仮縫いがあり面倒なテーラーより、すっきりおしゃれでかっこいい既製品が1970年以降市場を席巻し、ハンドメイドのオーダーマーケットは急激に衰退しました。それ以降長い我が世の春が続くアパレルメーカーでしたが、
1.自社ブランド育成を忘れた過度の既存ブランド依存、
2.自社での販売努力を忘れた過度のデパート依存、
3.利幅を求めるあまり過度の中国生産依存
でアパレルメーカーも甘い汁を吸いすぎました。非常に残念ながらレナウンさんの破綻でご存知のように現在アパレルメーカーは軒並苦戦しています。

小さな店だから基本は大切にしたい。

いま改めてサプライチェーンの日本回帰が叫ばれています。われわれ小さいテーラーですがニッチな存在としてアパレルメーカーができなかったことをコツコツと実現しています。毛織物はその発祥の地であるヨーロッパをリスペクトしてイタリア、英国素材が多いのですが、こと縫製につきましては、オーダースーツ、オーダーシャツは日本縫製工場のみで生産しています。オーダースーツを扱う長崎県の縫製工場とはもう40年を超えてお願いしています。オーダーシャツを扱う縫製工場もお付き合いをはじめて20年近くになります。外国人研修生も使わずその地方の雇用を確保し、天然素材を選んで使い、ていねいなものづくりを続けています。工場を通して日本の名工、柴山登光先生とも知り合いました。もちろん中国縫製オーダーと比べ、一万円から一万五千円ほどは高いですが、その「安心」という価値は計り知れません。世界からモードの情報を集めつつ、ものづくりは日本国内、LOCALで続けていきます。

日本国内の縫製工場で丁寧に仕立てたマスクを6月末までスーツにおつけしています。