昨晩ギターを探す夢を見た。今現実の僕はギターは何本か持っているのでギターを探すことはない。しかし夢の中では大きな鉄筋のビルの三階にギターがたくさん並ぶ中、いい音のするギターを探していた。店員さんにいい音のするギターはどれですかとたずねると、店員さんはこれを弾くと良いと見たこと無いような形のアコースティックギターをさしだした。弾いてみるとなかなかいい音がしてお値段は5万円とそんな高くない。もう少し高くても良いからもっといい音のギターは無いですかと聞くと、材から選ばなければといろいろな木材を見せてくれた。でもそれでは音が分からないと訴えると、おじいさんとおばあさんがやっている小さなブースにつれていかれた。そこではギターの弦を使った四角い小さな木の箱のオルゴルを売っていた。好きな曲を言っていれたらギターの音色がするオルゴルをオーダーで仕上げるという。それで18000円だそうだ。せっかくここまで来たし、払える金額だったのでグリーンスリーヴスという曲でオルゴルを作ってもらう事にした。それで小さな木の箱のオルゴールをもって帰った。
こんな箱の形のオルゴルだった。
ここからは現実の話。現在のスーツの風景を考えてみる。時代は明治、和服を捨ててスーツを着る事が日本の男の憧れでもあり戦後、物がない時代はスーツ一着は初任給3ヶ月分とも言われていたくらい高価な物だったが作っては売れるガチャマンというよばれる景気で毛織物会社やテーラーはうるおった。いまは青山、青木、2プライスショップなど量販店の店内には無数のスーツが吊るされていてどれも同じように見える。そんな店が郊外にいくつも軒を並べているのをみるともう洋服もコモディティ化つまり陳腐な物の一つに成り下がってしまったような気すらしてくる。コモディティ化というのはwikiで調べると、コモディティ(英:commodity)化は、市場に流通している商品がメーカーごとの個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差ない状態のことだそうだ。私の子供の頃は高価なカラーテレビを所有する親戚の家までクレージーキャッツの番組を見に行った憧れの存在だったテレビ、ヴィデオカメラ、パソコンなどなどモノがどんどんコモディティ化してくる時代。でスーツ、ジャケットはコモディティであるか考えてみる。当店で扱うスーツを実際着てみると、素材の違い、微妙ではあるがディテールの違い、サイズの違いでどの一着をとってみても同じ物はない。「服の材料」を考えてみる。表地、裏地、ボタン、芯にしても考えてみたら手作りのものではなく実のところ「天然素材を原料とした工業製品」である。とはいえそのそれぞれに作り手によって個性があるマテリアルで、日本製でも中国製でもどこで作っても変わらないという訳ではない。
昨日、御幸毛織のスタッフが来て、織物の柄を選ぶ際の試し織りであるマス見本を見せてもらった。マス見本というのはたぶん四角の連続なので升見本ということなんだろう。一枚の布の上で組織といわれる織り方を一定にしながらタテ糸やヨコ糸の色、ストライプの色、幅などをいろいろ変えて服地の柄を沢山つくりそこにできた服地の柄を選んで行く。サンプルを作るのも手間のかかる作業だし複数の小さな四角の見本の中から出来上がったスーツを一着づつイメージしながらベストな一柄を選び決める事も至難の業とも言える。そんな柄を何十種類選んでそのシーズンのコレクションとして発表するのが毛織物会社の仕事。選ぶのも大変だが大変といえば牧場の羊から刈り取った羊毛から糸のフシひとつない均質な表面の紳士服地まで仕上げるのは実はものすごく数多い工程が必要になる。
そして織り上げた服地でスーツを仕立てるのもまた沢山の労力と技術が要る。当店の洋服は熟練テーラーがひとりで縫う「ハンドメイド」ではなく「日本国内の縫製工場」で仕立てる。柴山登光先生が心血を注いだ型紙をパソコンに仕込んで、それをもとにCAMで裁断する。裁断がすめばパーツに別れてラインに。工場生産と言ってもラインにいれればところてん式に出来てくるのとは大違いで、当然ミシンという機械のアシストはあれど100を軽く越える工程が必要。一工程ずつ人がミシンをあやつり作っていく。そしてラインにながれているものはすべて色柄、サイズの違うパーツでやがてさまざまな種類のスーツ、ジャケットがラインの最終では仕上がってくる。そんなモノツクリの現場に立ち会うとコモディティ化とはまったく違う風景だと思える。
コモディティ化してくるものが増えてくる中、 反コモディティな存在であるオーダーメイドの世界に身をおいているわたしは今の時代できっと幸せなのだろう。
同じ織物のなかに小さく四角に区切った色柄を複数ならべて織られたのがマス見本。これはグレンチェックのマス見本。
ストライプ柄のマス見本
タテ糸とヨコ糸の色を変えるとどんな見え方になるか。それを見るためにこういう見本を作る。