さっき自転車で栄に向かっていたら中学の同級生にすれちがった。中学高校と一貫校で6年間いっしょだったので顔はなかなか忘れない。声もかけず通り過ぎたがああこんなおじいさんになってしまったかと少し驚いた。向こうも気がついていたら僕をみてきっとそう思うだろう。
いまスタジオジブリのアニメ「風立ちぬ 」が封切りとなり主題曲として荒井由実「ひこうき雲」が流れている。ぼくとぼくの仲間達はこの曲をききながら高校二年生の夏を思い出している。われわれが卒業した高校の最大のイベントは2日間女子高校生もたくさん訪れる文化祭。一年生はまだ見習い、三年生は大学受験に備えるということで二年生が文化祭に高校時代の全精力をかたむけることになる。御出来になる生徒はA群、そうでない生徒はB群に分けられ、わたしは問答無用で誇りたかき私学文科系つまりB群に配属、そして学業を顧みず近所の学校との交際のためもあり文化祭に全力を傾注した。
しもちゃん、フクヤ、サノ、チカダなど50代半ばになった今でもつき合っている仲間と知り合うことになった二年B組は最初は「ストリッパー」というアンダーグラウンドに生きる人たちにスポットライトを当てて取材するテーマを考えたが反対意見が多く頓挫、その後「自然」というどうでも良いタイトルになってしまいそれにすねたグループは映画監督をめざしていたヒラヤマサトシの号令で映画を作ることに。それも理想をうたうチャラい映画ではなく深作欣二的リアリスム(たぶん)を目指した青春映画を作り始めた。映画については映画好きのヒラヤマがすべて仕切った。映画をつくるにあたり、どんな映画をつくるか仲間で深作作品や佐藤純弥作品などを見に行った。
ヒラヤマ、チカダ中心に、
偽りの環境保護をうたっている会社がじつは環境破壊に加担しているのを知って憤慨した街のチンピラがその会社を破壊すべく行動したが結局あえなくやっつけられる。
というストーリー脚本を作った。映画を撮るにはフイルムも買わなくてはいけないし現像代もいる。どうやって調達したんだかはっきりしたことは忘れたが、すべてヒラヤマが八面六臂の活躍で資金調達をした覚えが有る。近くに座っている仲間でお前この役やれとかキャストはかなり適当に配置しわたしもそのひとつを貰ったがタチキやチカダ、ヤマモトマヒトほどいい味は出せなかった。
映画はストーリをばらばらにして時間軸もとりあえずバラバラにしてシーンごとに撮影することなどヒラヤマ以外は知らなかったが監督のヒラヤマにいわれる通りいろいろカメラの前で演技をした。
その映画はセリフが入っていないトーキーでない無声映画だったが弁士がストーリを語るのではなくBGMつまり音楽がそのシーンを「語る」という今考えるととてもアヴァンギャルドな映画だった。それもフィルムには音声トラックが無いから8mmフィルムをまわしながらカセットで音楽を流すという手法、今から考えるとヴィデオに合わせてDJプレイをするという苦肉の策として始まった方法ではあったもののじつはクールなアーキテクチャだったのだ。ただ幻想的なストーリではなく比較的単純なストーリーにそういうアーキテクチャを選んだところがヒラヤマのセンスのいいところだった。
そしてその音楽を選んだのがいまは豊田で町医者をしているチカダナオト。チカダは5つ年上のおにいさんが音楽好きだったためセンスのいいレコードをいいオーディオセットでたくさん聞いていた。夏の間チカダの豊田の家にこもりチカダ中心にその音楽を選んだ。
いま38年前の記憶をひもといて覚えているのはこれくらい。
- 中川イサト「その気になれば」
- ジョニー大倉「いつになったら」
- シュガーベイブ「ダウンタウン」
- CSN&Y「アワーハウス」
- 荒井由実「ひこうき雲」
- 鈴木茂「微熱少年」
- 小坂忠 「しらけちまうぜ」
まだ忘れてしまった曲があるかもしれないが今覚えているのはこのあたりだが聞き返してみてもといまでも古さを感じないいい曲ばかりで、日本のニューミュージックの創成期を飾った曲がちりばめられている。
たくさん素晴らしいスタッフをそろえてアニメ映画を作っているジブリとはちがい有象無象があつまったクラスで作った映画にこんな良い曲がつかわれたということはなかなか「エポックメイキング」じゃないかと思えた。その映画は「蠅」となずけられ文化祭で沢山の人から評価を受けることとなりその年の文化祭の「特別賞」を勝ち取ることとなった。そしてその勢いでヒラヤマ、チカダ、タチキ中心に年内にもう一作さらに本格的やくざ映画「夕焼けに鎌をとげ」を作り、そしてわたしは当時アンダーグラウンド文化の殿堂だった名古屋・七ツ寺共同スタジオに行き、そこの主宰、二村さんに上映をかけあってこの二作の上映会を敢行し名古屋の文化シーンで話題となった。その当時七ツ寺共同スタジオは今は誰もが知っている北村想さんが主宰「TPO師★団」が住み込んで演劇を作っていた。そんな方達と高校生はつきあうこととなった。
映画熱に燃え(萌えではなく)映画界に進む事をこころに誓っていた2年B組の連中も3年でクラスがばらばらになり、大学受験に備えなければいけなくなり結局、映画関係に進んだのやはりこの話の中心人物だったヒラヤマだけだった。今流れる「ひこうき雲」でそんなビタースイートな季節を思い出した。youtubeで簡単に聞き返せる時代になってしまったがこの音楽達がそのとき作った映画だけではなくずっといままで生きてきた間に流れるBGMになった。
小坂忠 「しらけちまうぜ」
CSN&Y OUR HOUSE
シュガーベイブ ダウンタウン
中川イサト その気になれば
ジョニー大倉 「いつになったら」
鈴木茂 微熱少年
荒井由実 ひこうき雲