地域の紳士服地卸商の組合の代表を引き継いで二年になる。紳士服地というのは青山アオキなどのロードサイド店、ツープライスショップが多くのスーツのシェアを握る今はその素材と思われてありきたりのものになってしまったがかって毛織物の紳士服地はポルトガル語raxaを語源とする「羅紗」といって繊維製品の王に君臨する地位にあった。豪州から貴重な羊毛を輸入し自動織機で職工さんも多く使い作り出された紳士服地は耐久性と着心地の味わいの両方兼ね備えたものはまさに繊維製品のなかでも最高級の品質で価格も高かった。それを扱うことができる有力商店は東京なら神田須田町、大阪なら本町、船場、名古屋なら本町近くに集まっていた。そんな商店のご主人達は旦那衆といわれ商売だけでなく遊び、文化の面でも名を馳せていた。われわれの組合もその末裔である。とはいえぼくは旦那衆の末裔ではあっても旦那衆ではない。番頭さんや丁稚さんがきりもりする店の経営者が旦那でわたしは実際、店で接客し、販売し、採寸し納品するという実務をやっている「プレーヤー」なので旦那衆ではないのは明白である。それにWebの製作や管理、DMの作成、このブログも自分一人でやっている旦那というよりはSOHOの申し子で、アップルストアにルータを買いに行ったらスタッフに社長さん自らLAN管理者なんですかと驚かれたこともある。
この年末、我が組合で忘年会は、ツテもあり料亭「か茂免」で開催することとなった。名古屋最高と話には聞いてはいたがいままで行った事がなかったのでとても楽しみだった。名古屋でもっとも閑静でエレガントな邸宅がならぶ東区白壁町に「か茂免」は位置する。日も暮れたあとは門にかかる看板がたより、なかに入ると番頭さんが出迎えてくれる。下足をあずけ、渡り廊下を行くと外に見える庭にはもう紅葉の時期はとっくにすぎたのにここには盛りの紅葉が美しくライトアップされている。控えの間でまずお茶をいただき待つ。全員がそろったところで宴の間に。乾杯をして八寸をいただいていると、おまちかねのすっぽんだ。血とか唐揚げとかはやめてスッポンのホントの旨さをあじわえる鍋と雑炊のみで軽やかに。二千度の温度に上げるためコークスを焚き、鍋の底が真っ赤になるくらい高温ですっぽんを炊き上げるのはあの京都の名店「大市」と同じ。炊きあがった鍋を板前さんが部屋に運んで来てとりわける。椀に入った汁は薄味ながら極めて濃厚、よく煮込まれたすっぽんの肉はとろとろでほろりと骨からはずれる。沢山の良い時間と、少しの残念ながらそうで無かった時間もあった今年を忘れ、来年に向かう力をつけるため滋養にあふれた珍味にみんなで舌づづみを打った。
か茂免の看板がめじるし。
窓の外には見事な庭が。
庭のあいだ、木でつくられた風流な渡り廊下を抜けるとひかえの間。
華麗なお部屋
八寸はからすみ、牡蠣、ヒラメ、牛ヒレ、豆腐の味噌漬けと酒にあうものばかり
コークスの強火で焚かれたすっぽんとネギ。
板前さんにとりわけてもらう。
汁は薄味でかつ濃厚。焼いたネギとすっぽんのみが潔い。
フルボディのスペイン産ワインがマリアージュ。
満足なりわが組合衆。