服地問屋さんの営業スタッフに高級テーラーの扱う服地を聞くと「エルメネジルドゼニア」とならんでライセンスブランドを扱う店が多いそうです。でもライセンスブランドはオーダーサロンタナカにはありません。人気のあるといわれるライセンスブランドを当店が扱わない理由をお話しいたします。

毛織物工場で作っている服地を仕入れたい。
オーダーサロンタナカは現在「ロロピアーナ」「エルメネジルドゼニア」「ドーメル」「カノニコ」「御幸毛織」「ドミンクス」の服地を中心にとりあつかっています。これらのブランドは「ドーメル」をのぞきすべて織物工場から始まった会社でいまでも自社工場で紳士服地を生産しています。織物工場でできた服地のことをテーラー用語で「ミル物」(ミルとは織物工場の意)といいます。たとえばロロピアーナ社は副社長のピエールルイジロロピアーナがオーストラリア、ニュージーランド、モンゴルなどの産地に直接出向き原料の羊毛を購入し糸を作る紡績工程、毛織工程、染色整理工程をへて服地まで他社の助けを借りずにすべて自社で作っています。当店は紳士服地は歴史の古い「工業製品」と考え織物工場で作られた物を直接買い付けることを重要だと考えています。長年の取引でその工場でできる服地の特性やクセも理解し、織物の性格をよく知った上でお仕立てしたいのです。ジャケット、スーツ、パンツの素材である紳士服地の良さは、専門の織物工場が「農産物」である原料の良質な羊毛を買い付け各製造工程でちいさいノウハウを長い期間積み重ねてはじめて醸し出されるものです。「ドーメル」につきましては織物工場出身でありませんが古くから英国で「マーチャント」つまり織物問屋として長い間紳士服地を取り扱っている歴史があり現在はメーカーである英国ミノヴァを傘下におさめアマデウスなどスーツはミノヴァで作っています。ことし1月英国サヴィルローで歴史あるマーチャントとしてテーラーにリスペクトされていることを目の当たりにして感銘を受けました。

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 ロロピアーナ服地についているタグ、これはワインのラベルとおなじ「エチケット」と呼びます。出荷日、反番号、柄番号、m数、出荷された店の名前、品質表示、1mあたりの重量まで記載されています。ここまで書かれているのはロロピアーナだけです。また上のほうの丸い物はヨーロッパで封印につかわれてた鑞を意味します。
 
 

織物の「耳」
織物の端の部分のことを「耳」英語でセルビッチといいます。ジーンズでもセルビッチ付デニムは旧型織機で織るため高級品と言われています。服地がほつれるのを防ぐために耳はあります。ここにメーカー名を入れる事を思いついたのがイタリアのエルメネジルドゼニア社ともいわれていますし英国ペンドル&リヴェット社フィンテックスとも言われています。現在オーダーマーケット向けのスーツ素材にはほとんどメーカー名や原産地、素材表示をした耳がついています。対してアパレル向けの服地には服地をお客様に見せる必要がないためメーカー名の入った耳はついていません。これを通称「坊主耳」と言います。しかしちょっと考えると分かるように耳の有無と素材のよしあしは関係ありません。

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上からドーメル、ロロピアーナ、エルメネジルドゼニアの耳

「ライセンスブランド」について
「ライセンスブランド」とは欧米のデザイナー、オートクチュール、専門店などからブランド使用のライセンスをうけた会社が対価を見返りに物に付けているブランドのことを言います。紳士服地にもそんなライセンスブランドがたくさんあります。日本、いや東洋人は欧米ブランドに弱いといわれ服地の「耳」にライセンスブランドの名前をつけるだけで高級品に化けるのです。わたしは欧米の革製品、喫煙具、自動車など織物生産に関係のないブランドが「耳」に付いている服地には違和感を覚えます。オーダーサロンタナカはそういったライセンスブランドにはずっと前から疑問を抱いておりました。ライセンスブランドの服地はべつに粗悪ではなくそこそこ良い物も多いのですがやはりライセンス料の分だけ割高という事はまちがいありませんし私が知りたい「出自」「経路」が不明瞭です。コンプライアンスの時代、ブランド名で高級品を装っている服地よりしっかり作り手が分かる物だけを扱いたいと思うのです。