今バルト海の上空でこれを書いている。昨年夏行ったヘルシンキ、サンクトペテルブルグの近くを飛んでいる。北の国の夏はほんとうに涼しくここちいいかぜがふいていたが今は雪に閉ざされ人びとは屋内で暖炉を囲みながら過ごしているのだろう。そんなことを想像すると、不思議にメランコリックな気分になってくる。ビジネスクラスに比べこわばった表情のフライトアテンダント、エコノミークラスの狭くて硬いシートからあと一時間あまりで解放され、それからフランクフルトの空港で少しの時間待つと今度はミラノリナーテ空港までの便に乗る。恒例になった冬のピッティ通いは七十も半ばを過ぎた母が家を守り高校生の娘が寂しがらずに元気に学校に通ってくれるからこそ行くことができる。フィレンツェ、サンタマリアノッヴェラ駅北のバッソ要塞で行われるメンズウェア、特に実際にに着るための服リアルクローズの世界最大のイベントピッティインマージネウォモにいってなんとか少しでも多くのことを吸収したい。何回も行っていると慣れで流して見てしまいそうだが、初めて見に行った時のように心を震わせながらバッソ要塞の門を明日くぐろう。初めてピッティに出かけた時のことを思い出してみる。今はきんぼしをやっているすぐ下の弟が大手メンズショップのバイヤーだったので一緒に出かけた。弟はピッティの入り口に入る時ぐっとパンツを引き上げベルトの穴を一つきつめに締めてパンツの裾を短くして、これがピッティウォモの流儀なんだと初めて行ったくせにどこからか聞いてきたのかそう言ったのが思い出される。