この冬で16年か17年目かそんなこともだんだん判らなくなってしまったがフィレンツェ、サンタマリアノヴァラ教会の前にあることで名付けられたフレンツェサンタマリアノヴェラ駅から徒歩5分のバッソ要塞で毎年冬夏二回行われるメンズのリアルクローズ(奇抜さで競うモードではなく普通に着る服の意)の見本市ピッティイマジネウォモにことしも妻と出かけた。ヨーロッパから遠く離れた地方都市の小さなテーラーであるわたしどもの店オーダーサロンタナカが世界標準に準拠した服作りをするための情報収集作業だと考えここに通っている。
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レジストレーションオフィス前には騎馬警官が警備。これがフィレンツェ。
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入ってすぐの建物は印刷したシートをラッピングして飾られている。
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古いスピーカのディスプレイ、そしてギターピックのデザイン。
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メイン会場前には小さなスピーカーのオブジェ。

入り口近くにレジストレーションオフィスがあるがもう事前に入場券は入手しているのであらためて登録する事もない。煉瓦でできた城門をくぐると目に入るのはギターのピックに書かれた「Rock me Pitti」とギターをかき鳴らす人物の影がえがかられた建物が見える。メンズファッションの裏に鳴り響くロックンロールミュージックをイメージしたのだろうと思うが、40年前中学生の頃、ロックが好きで好きで髪の毛が短いのに当時、日本のロックファッションの総本山だった東京、原宿に友人スギハラと出かけた思い出がフィレンツェの地でよみがえる。入場しその建物に入ると中にはウッドストックの白黒写真がディスプレイされショップの看板にはギターに鳥が止まっている図柄が書かれている。若い人にはピンとこないかもしれないがこれは1969年ニューヨーク郊外ヤスガーの牧場で40万人集めて行われたウッドストックフェスティバルのシンボルデザイン。かってモードには音楽が必要だった。今回のテーマは音楽とモードが深く密接に関係しあっていた時代へのオマージュだと感じる。会場ではいくつかのバンドが演奏していた。でもギンギンのロックは少なくどことなくビートルズのサージェントペッパーズかヴァンダイクパークスを思い出すような足踏みオルガンやアコーディオンを使った郷愁をさそうバンドが目につく。
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演奏していたバンドのひとつ。郷愁あふれるサウンド。

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50才以上にはピンと来るギターに鳥がとまるこのディスプレイ
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ジャニスジョプリンとウッドストックの写真がディスプレイされていた。

ピッティイマジネウオモの会場には二日間いたがブースを出しているブランド、メーカーの交代も目につく。栄枯盛衰の早いモードの世界という理由もあり、例えばロンドンのハケットなどはホールセールより自社店舗に重きを置くための撤退という要素も有るのでいちがいに撤退が悪いとは言えない。エルメネジルドゼニアなどもかっては大きなブースをしたてていたがミラノに自社の展示場を造ったのでピッティは参加しないということもある。メイン会場の二階にあるクラシコイタリアゾーンはナポリのキトンに代表されるかってのようなクラシコど真ん中ばかりでなくほかのゾーンのテイストとあまり変わらなくなって来た。

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メイン会場の階段
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メイン会場地下 ラルディーニ

このメイン会場に通底するメッセージは「スーツ、ジャケットを着る強い意志」。日本では数年前のクールビズ、そして震災以後、明治以来続いて来たビジネスでは強制的にスーツを着るというお達しの効力がなくなったということで6月過ぎてネクタイスーツ姿はほとんど見なくなってしまった。とはいえ、セレクトショップ、伊勢丹メンズ館などの健闘でわかるようにスーツを愛する人が減った訳ではない。アメリカなどニューヨーク、東海岸の一部以外スーツを着る文化がなくなったともいえるがヨーロッパ、東アジアでは むしろスーツラバーの愛は深まった気すらする。そんなスーツ、ジャケットなどクラシックスタイルへの渇望を強く感じる。
あまり変わらないと見られるスーツ、ジャケットだが微妙なディテール、素材の違いにこころを配る世界の人々がピッティを熱く見守っているのを感じる。
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クラシコイタリアゾーンにて マエストロの風貌
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颯爽と歩くスーツ姿の若者

ことしはツヤのある表面感の素材に加えてツヤ消し、いわゆるマットな素材感の素材をよく見かけた。この変化は「どうだ高級そうだろ!」と見せつけるモードから穏健な、密やかな、成熟したスーツ、ジャケットスタイルへの移行かもしれない。
よくモードで語られるラペルの巾について、いちがいには言えないがジャケット、特にカジュアルに着られるものは細めがおおく、クラシックに着られるものには太目が多い傾向にあると感じた。さらに極太ラベルはヒストリカルなデザインとなる。
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端正だがマットな素材で仕立てたスーツ姿
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この二人もマットな素材のスーツを着こなしている。

ジャケット素材で特に目についたのは毛が表面からでているような、毛玉のあるような素材がほんとうに目についた。コートで言うとカゼンティーニに代表される毛玉だらけの素材が典型例となる。この毛玉系とでもいうべき素材はまちがいなく来冬のテーマになると感じた。
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毛が表面から出ているようなジャケット素材
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右の人が着ているコートが毛がでている白黒素材となる。この素材は会場内いたるところで見かけた。
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会場でお会いした柴山登光先生は早くもこの毛が表面からでているカルロバルベラのジャケット素材をしたてて着用されていた。ぼくは御幸毛織のブラックシープの無地ジャケット。この色も会場でよく目についた。
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会場であった方のコート、このカゼンティーノが毛玉系の代表。

チェックのジャケットももちろん多いが、無地の明るめのグレー、ブラウンのジャケットを展示の服や実際着る人を多く見かけた。これは万人に似合うためほとんどいきわたってしまった濃紺無地ジャケットにもうひとつ付け加えたユーティリティ性のあるジャケットとなる。チェックのジレやパンツを加えると十分おしゃれ性の高いよそおいになるし、抑えめのコーディネートも当然できる。チェックのような印象の強さもないため長いスパンで着用も出来るということもありこの冬人気がでてくると予想される。
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淡いグレー無地のジャケット
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無地ジャケット三人組
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グレージュの無地グレージュをさっそうと着こなす。

紺、ブルー、ブラウンに加えて会場内で特に目についたのはグリーン。グリーンは多くの色調が存在するがなかでも深いグリーンのアイテムが目立った。 カーキならミニタリー系がよく使う色でもあるしオリーブ系ならロハスな色でもある。 しばらくグリーンの服をみることはなかったが今年はほんとうに沢山のブランドや着ている人を見かけた。

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右の方のスーツがグリーン無地
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この方もカーキでグリーン系

私自身2005年から展示している洋服の傾向だけでなくピッティウォモ会場に歩いている人つまり洋服屋、アパレル関係者の装いがその年のモード、ヨーロッパにおけるファッションを表現しそれをウォッチングすることが着こなしの参考になると考えスナップを撮っていた。日本のLEON やMEN`S EXなどの雑誌のスナップ特集が先駆けになったかもしれないしScott Schuman氏のモードスナップ写真集THE SARTORIALISTの影響かもしれないが、2014の今となったら買い付けの場としてのピッティウォモという意味から様子が変わってきた。

1.お洒落自慢に見せたい人、撮られたい人 

2.撮った写真を商売にするカメラマン

3.着ているところを見せる事で自社のモードを宣伝するメーカー
がピッティウォモ会場内に入り乱れ、その国籍もイタリア人、日本人、中国人、韓国人などハイブリッドに入り乱れる状況になってきたのを報告しなくてはいけないだろう。今となっては通い始めたころからはまちがいなく変質してきたピッティウォモではあるが今後ともウォッチングはつづけなければならないことにはまちがいない。

まだこのブログで明日以降も報告の続きがあります。次回はスナップ特集です。

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こういう一眼レフを構えたカメラマンが激増。またこの人たちも撮られる人としての装いをしているところが興味深い。
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この方も一眼レフをもちながら装いばっちりピッティウオモ対応となっている。
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とても個性的なベルベットジャケットだがどこかのブランドが着せて歩かせているモデルさんだとおもわれる。まちがいなく「撮られる人」にカテゴライズされる。
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スナップを一眼レフで撮るひとがやたらに目につく。
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この方たちはすごくおしゃれだがモデルさんの可能性あり。でもいい感じだね。
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おしゃれな人間を見つけては背景も持参で写真をとるカメラウーマン。