先日朝、店の前でお客様のクルマを誘導していたら右のほうに美しいスーツを着たジェントルマンが近づいてくるのを発見。やはりその着こなしから間違いなく当店のお客様だった。東京にお住まいの方で名古屋に仕事でお越しになった際に立ち寄ったとのこと。このところ東京、関東からのお客様がほんとに多い。東京にもあまたのオーダー洋服屋さんがあるのにわざわざ名古屋まで来ていただくのは本当に有り難いこと。
そのお客様とロロ・ピアーナのリファレンスサンプルを見ながらお話をしていたのだが、そのお客様はもう3年先までの衣服計画が定まっていてどの順番に何を買おうということまで決めているそうだ。だからその方がいつも「タナカさん健康と事故のないように気をつけてください。タナカさんがいなくなったら困るんです。」とおっしゃる。 そこまで頼りにされていると思うとやはり嬉しいもの。私どもで仕立てた洋服がお客様の人生を彩るいわばパートナーになっているということにふと気付かされる。

大学にいるころから本郷近くの根津の伊丹裁断研究所に通い、洋服の裁断を習い、大学を出たらすぐに今当店の縫製を担当している工場がそのころは東大阪にあったので住み込みで洋服の縫製やオーダーのシステムのことについて勉強を重ね、そしてすぐに当店に入ったのはもう35年前になる。最初はこんな小僧にオーダーの洋服が分かるかとウルサ型のお客様から厳しいお叱りを受けることもあった。そんな中お客様には限られた予算の中でも「いい洋服」を着ていただきたいという気持ちはいつも強く持ち続けていた。そしてそもそもなにが「いい洋服なのか」を問い続けていた。 若い時の苦労は買ってでもしろという言葉通りその頃の経験が今活きていることだけは間違いない。
我が友人の中には大きな工場を運営しているものもいるし、救急医療の現場で多くの人々を救っているドクターもいる。有名上場企業で役員になったナイスガイもいる。わたしはずっと街の洋服屋だが、正直まったく後悔はない。 お客様に頼りにされる洋服屋であることは本当に幸せ。まさにNO REGRET. こんど生まれ変わることがあっても洋服屋になりたいとも思っている。
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ミスタートルソが着ているのはロロ・ピアーナサマータイムを本バス毛芯仕立てしたジャケット。