わたしはこの仕事を40年あまり続けています。最初は若造でしたが、気がついた今は大ベテランになってしまいました。

大学をでてすぐこの仕事につきましたが、その頃どうやってオーダーするお客様を見つけるか全く五里霧中。父の知り合いなどに紹介してもらった保険会社、自動車ディーラーやお役所に出かけ、デスクで仕事する人にテーラーですがオーダーしませんかと声をかけてまわったりしましたが恥ずかしさのあまり身体中の汗が吹き出す思いでした。オーダーで洋服を作りそうな人にダイレクトメールを出したりしましたが、当時オーダーで洋服を作る人はだいたい名古屋のデパート松坂屋や有名テーラーであつらえていて、無名のテーラーで作ろうという奇特な人などほとんどいません。縁という縁すべてを使ってお願いしたものです。地方の親戚のツテを頼って服地をクルマに積み込んで売りに行ったり苦しい日々は続きましたが、ずっとメシが食えたのが不思議です。ただ年月を追うごとにオーダーいただいたお客様からの口コミご紹介などで徐々にではありますがオーダーは増えてきました。

そんな日々を20年前まで続けていましたが、インターネットのウェブサイトがそんな状況を変えていきました。ウェブサイトは細かいニーズを広い地域から探すのに最も適した武器だと20年ほど前に「傘屋どっとこむ」のオーナー宮武さんの講演を聞き、ピンと来てお店のサイトを自作しました。なるべくコマメに更新を続けていたら、ネットを見たと新しいお客様がひとり、ふたりとご来店いただくようになってきました。そしてその後、お客様からブログを書いてみたらどうかとおすすめいただき、11年前にブログを始めましたらまたそれを見ていただくお客さまのご来店が続くようになりました。ブログのおかげで服地をクルマに積み込んでの外販はしないでもお客様が来ていただけるテーラーになりました。ブログは休まず3日に2日は書くようにしています。書くのを休むとお客様が来店されなくなるのではとそれがモチベーションになっているのは否めません。

実はこうやってパソコンのモニターに向かって文章を書くのは嫌いではないことにあるとき気がつきました。まるで編み物でもするように文章を書いていくことは面白く、仕事のことや自分の暮らしのことをおだやかにそしてささやかに表明していくことは、楽しさもありますしよろこびもあります。これからもオーダーサロンタナカの素材説明とヴァリエーション、オーダーの仕方や縫製など、ご理解いただきたい内容を中心にして、文化、くらしについても書いていきます。

なにとぞ今後もご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

本日納品のお客様。ビターレバルベリスカノニコのウールシルク素材でこんな素敵なセットアップスーツが出来上がりました。仕立てはambai。