今そこそこの工場縫製のオーダースーツの上衿、ラペル、胸ポケット、脇ポケットにはAMFステッチ(ハンドステッチ、ピックステッチとも言われる)が施されている。これはもともとハンドメイドのテーラーがラペルをしっかり押さえシャープなラペルにする目的のための技法通称「星飾り」または「手星」を機械で置き換えたものだ。美しく見せるだけではなくジャケットの形崩れを防ぐ効果もある。

いまではほとんどのオーダースーツや既製品に採用されているこのディテールだが当店は30年前からオーダーいただいたスーツ、ジャケットすべてにこのステッチを施してきた。ボーリングの機械で有名な米国AMF社ハンドステッチミシンを私どものスーツを仕立ててくれる工場が35年前導入したためでこのミシンは当時2000万円はしたそうだ。通常のミシンによるステッチは上糸と下糸の2本によって縫い合わさっているのに対してAMFによるステッチは一本の糸で縫う。どういう仕組みかは知らないがたぶん人間の手をシミュレーションしたように動くのだろう。ミシンによるステッチが一着一分たらずで出来るのに対してAMFミシンでのステッチは一着に10分くらいかかる。現在ではこのハンドステッチマシンはAMF社だけではなく日本のJUKIも製造している。
AMF
 
当店の縫製を担当する現場にあるAMFミシン

当店ではラペル、上衿、胸ポケット脇ポケット、袖の開き、つまりジャケットの端っこすべてにあしらっている。袖の縫い目、胸のダーツ、肩の縫い線にもあしらうやりかたもセレクトショップのスーツなどには散見するがわたしはステッチにより服地のラインの流れが妨げられるため過剰なディテールという気がする。

当店では端っこぎりぎりである2mm巾に入れる場合と7mm巾に入れる場合があり、ほとんどのスーツは2mm(コバステッチとも言う)に入れる。ジャケットは7mmに入れた方がスポーティでカジュアルな印象、カシミア100%などエレガントな素材には2mmステッチが多い。略礼服ブラックスーツには入れるがタキシード、モーニングにはまず入れない。 
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2mmステッチ
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カジュアル感が出る7mmステッチ