まだまだ寒いがもうそろそろサクラのはなしもちらほら聞く頃になり、夏のスーツのオーダーの季節がすぐそこまできている。夏のスーツが冬のスーツとは異なるところが求められる。冬は柔らかさ、着心地の良さ、光沢などいわばエレガントさが特に注目されるに対し、夏は、丈夫さ、強度、通気性の良さや涼しさなど機能を求められる。
事実夏になるとパンツの股の部分が破れたと修理を依頼される事も多く、われわれテーラーも夏に限ってはお値段の高い高番手羊毛を使った素材よりしっかりした素材をお勧めする場合が多い。

パンツが破れるのはパンツが古くなって服地が薄くなってしまった場合が多いがまだ新品をおろして間がない場合でも破れてしまう場合もある。体温で服地が暖まり身体から出る水蒸気で服地が柔らかくなったところでお尻に強い圧力や衝撃が加わると瞬間的に断裂することがある。そこで夏のスーツでパンツを破れないようにするポイントをいくつか。 

  • まず二日続けてスーツを着ない。服地が劣化する一番原因は続けて着用する事です。
  • ヒップはあまりぴったりした設定にしない。ヒザ、すそはスリムにしてもヒップには余裕を少し持たせる。 
  • 服地にはあまり高番手を選ばずなるべくタテヨコ双糸を選ぶ。 できれば安定しているウール100%を。
  • 可能なら2パンツにして服地を休ませながら着る。

今週、御幸毛織で紳士服地の設計にたずさわりその後、上海DAIDOで技術指導に当たっていた嶋田昌則氏が来店されて毛織物の構造について詳しくレクチャーしていただいた。テーラーの技術に今ふたたび脚光が浴びているが平面である織物というのは実は本当に奥が深く、なりたちを調べると大きい世界が広がっている。どういう羊毛でどういう糸を使いどういう組織にしたら良い織物が出来るか、そして仕上げ工程の整理はどういう方法が望ましいかなど織物好きのわたしにとって大変わくわくする話だった。時間を忘れて織物の話に没頭していたのだがそのなかでやはり夏素材として望ましいのはタテヨコ双糸、つまり二本の糸を撚り合わせた糸にするのいいだろうということだった。イタリア織物の場合、風合いを重視する意味で横に一本の糸つまり単糸を使う場合が多い。冬の場合はこれでもいいが夏はどうしても耐久性が出ない場合が多い。せっかく仕立てたいいオーダースーツなのでながく愛用していただきたい。ことし当店の夏のスーツはウール100%でタテヨコとも双糸の素材を中心に集めた。双糸についてさらに詳しく言うと通常はZ方向とS方向と撚りの向きの逆の糸を2本に合わせ、糸にふくらみを出す場合が多いがZ方向同士2本で合わせると撚りが強くなっていわゆるハイツイストになる。

イタリア カノニコ社 スーパー120`s オーダー価格59800円

イタリア ロロピアーナ社 スーパーサマー (スーパー120`s)オーダー価格78000円

英国 ドーメル トロピカルアマデウス オーダー価格72000円

イタリア エルメネジルドゼニア クールエフェクト オーダー価格84000円

今年の夏のオーダーサロンタナカのメイン素材である上記4種類はすべてタテヨコ双糸です。ロロピアーナ社 スーパーサマー、エルメネジルドゼニア クールエフェクトについては後日、スペシャルプライスも発表します。オーダーの際、デザインだけでなく耐久性の面も相談してください。
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元御幸毛織の熟練技術者嶋田昌則氏(左)に織物についてレクチャーを受ける。