大きい道を曲がり細い道を入ったところにある洋食店に出かけた。その日の客は私たち4人だけ。最初に私を含む3人が来て、喉が渇いていたので小瓶のビールを飲んでいると最後の一人である私の大先輩が来た。その店は彼が知っている店で彼との話に出て来る店だったから一度行きたいと頼んでリザーヴしてもらった。カウンターがキッチンの周りを取り囲んでいてフランス帰りのしっかりした顔つきのシェフひとり、よく磨き込まれたステンレスのキッチンの中で丁寧に仕事をしている。シェフの娘さんだろうか若い女性がサービスをしながら料理の盛りつけを手伝っている。まず一皿目はミル貝とヒラメのサラダ仕立て、ボッタルガの粉と切ったボッタルガが乗っている簡素な構成。泉州の水茄子があしらって歯ごたえの変化がありとても楽しめる。銘柄産地は知らないがフランスの白ワインをいただいていたので潮の香りが口いっぱいひろがるマリアージュ。二皿目はプディングのようなフォアグラのムースに贅沢にもフォアグラの厚切りソテーを重ねたもの。ブラウン色のソースがその二つを結びつけて完成された一皿となっていた。自家製のフォカッチャになすで作ったソースをつけていただきながら次の一皿を待つ。しばし待って出てきたのは煮た蟹、エビ、オマール、魚、貝が盛りつけてある大皿、ブイヤベースの登場。大皿がでてきたときあまりに見事だったので写真を写していいですかと聞いたら、シェフもサービスの女性も困ったような顔をされたので写真を撮るのはあきらめ、胸の印画紙に焼き付けることにする。別の皿で魚介類からの旨味たっぷりのサフラン風味のスープが用意され魚介の身をひたしたりしていただく。ニンニクベースのアイヨリソースを付けたり、かりかりに焼いた薄く切ったバゲットもスープに浸して変化を楽しむ。太くて白いものはホワイトアスパラで柔らかい魚の身との歯ごたえのコントラスト。魚介類には身に十分旨味があふれる炊き方の妙に心奪われる。あまりにそのブイヤベースが印象が深く、それからどんなデザートをいただいたか忘れてしまった。町のはずれにこんなレストランがあったんだ。そういう店は誰にも教えたくは無く自分だけの店にしておきたいものだが、そんな貴重な店をぼくに教えていただいたダンディな先輩に感謝した夜だった。