大学を出るまでずっといつもポケットには小銭しかない素寒貧。父とテーラーの仕事をはじめ、妻と結婚し、30歳が過ぎ子供が出来た頃にやっとすこしお小遣いの余裕も出てきた。友人に誘われでかけた元オフコースの鈴木康博と岡崎倫典のライブで美しいギターの音色を聞いて良いアコースティック・ギターががぜん欲しくなった。二人が弾いていたのはクルーズというメーカーの50万以上するギター。それはむりでも良いギターを買おうと何度も楽器店に通って、出会ったのが広小路本町の名曲堂でひときわいい音で鳴っていたグルーンというギター。日本の神田商会が著名なギターコレクターのグルーン氏の指導で作ったギターだが音もさることながらサイド・バックにハカランダという材が使ってあるということがどうしても欲しくなり手に入れた。
ハカランダ、ブラジリアン・ローズウッドとも呼ばれ、ブラジルが原産地で、中でもバイーア州東部からリオデジャネイロ市に渡り多く見られる。バイーアからリオはサンバ、ボサノバなどブラジル音楽の故郷でもある。芯の強い音がするとギターの材料としては最高のひとつであり、20世紀末にワシントン条約で輸出入が制限されてからはさらに高価になり幻の木となってしまった。
このハカランダバックのギターと過ごした日々もそろそろ30年を迎える。ギターを作る時10年以上乾燥した材を使っているはずだからこの木がブラジルの大地に根付いていたのは40年前となる。ギターはリペアしながら丁寧に使うと木が乾燥してきてどんどんこれからもどんどん音が良くなってくる。200年は使えるという話を聞いたことも有る。ハカランダの木が生まれてギターとして存在する200年あまりの歳月の一部だけが僕とともにある時間。自宅の部屋で時間の空いた時にポロンとギターを鳴らすのが好き。太く美しい音色のギターを弾いているとすぐ時間がたってしまうがギターの長い生命を考えると大した時間ではない。
ギターの背の板の木目でハカランダだと分かる。左がグルーンのギター。右は40歳になったころボサノヴァに惹かれ、ボサノヴァを弾くためのハカランダバックの手工ギターを手に入れた。
この4本が大事な友だち。