6月14日(金)ローマ発ナポリ日帰り
今日も快晴である。早めに朝食を済ませテルミニ駅近くローマ4大教会のひとつ、サンタマリア・マッジョーレ教会へ向かう。前回何度も通りかかった立派な教会だが入り口がわからなかった(実は裏口しか見ていなかった)。表にちゃんとした入場口があり無料で見学できることを今回初めて知った。内部は広大で、荘厳としか言いようがない。、マチガイなく日本なら拝観料を取るだろう。こんなものをタダで見せてくれるイタリアの懐の深さに驚く。
近くの衣料店のショーウィンドウで1969年に開催されたロックの伝説の祭典「ウッドストック」の50周年であることを認識させられる。そういえばPITTIでも音楽(ロック系)をテーマにしたブースがいくつかあった。「ジョン・バルベイトス」ではレッドツェッペリンを全面に出していたのに展示ギターがベンチャーズ御用達のモズライトだったお粗末さには立腹した。「チェルッティ」ではヘリテージ製のセミアコギターが飾ってあった。50周年というのは今回の一つのキーワードでもある。
本日は日帰りでナポリ、まだ先は長い出張である。役員Bとともにフレッチャロッサに乗り込みナポリに向かう。1時間ちょっとでナポリ中央駅に到着。隣接しているガリバルディ駅まで地下道で移動し、地下鉄・ケーブルカー共通の一日券をタバッキ(売店)で購入し地下鉄にムニチビオ駅まで乗車する。地下鉄出口をでるとそこは陽光降り注ぐ港街ナポリ。たぶん摂氏35度はあるだろうかフィレンツェやローマよりも暑い。眼の前のヌオーヴォ城は改修中でクレーンに囲まれていた。
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念願のナポリ入りでご満悦の役員B ヌオーボ城。

トレド通りを少し歩いてからキアイア通りへ。役員Bはナポリを訪れるのを楽しみにしていたようで街並みに馴染んでいる様子、ショップのウインドーをながめる目も真剣そのもの。前回行けなかったナポリビスポークの名店・ルビナッチ(旧・ロンドンハウス)に入る。路面店は小物を中心に扱っていて本店は店を出て少し上ったところにあった。日本での知名度も抜群なのに案外敷居は高くなく店内撮影も問題ないとのこと。さっそくBは気に入ったジャケットを見つけたようだがサイズが合わなかった。サイズ確認の際にはわざわざ上階の工房から職人さんが降りてきてくれたのはさすが名店。ナポリテーラーの総帥らしく内部も風格のある店で重厚感のある佇まいだった。英国のマーチャント物中心に生地も芯板に巻いた着分の状態で非常にたくさんストックされていた。ロロピアーナなどのイタリア素材のバンチも多く揃えていた。納品用のガーメント・バッグも立派なもの。高額品ばかりというわけでもなく、隣接するアウトレットにも案内してもらえた。
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ルビナッチで職人さんから直々に説明を受ける。
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ルビナッチ店内で長谷川喜美著サルトリアイタリアーナ発見。
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キアイアのルビナッチ
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ナポリの街

ルビナッチを出て革のバックのトラモンターノなどナポリらしいショップを見ながら歩く。Bの興味を引くショップがいくつも点在している。少し道に迷いながらセレクトショップのエディ・モネッティまでたどり着き、一通り視察を終えると昼食の時刻になった。多くのナポリの商店はこれから夕方までの長い休憩時間に入る。我々としても昼休みが必要だった。
昼食場所には超有名ピッツェリア「ブランディ」と決めていた。今回は本店の2階に案内される。斜め後ろの席にはシニョーラ3人組が陣取っていた。この店が発祥と言われているマルゲリータを当然注文する。途中でギターを抱えた流しのおじさんがやってきてヤマハのアコギで数曲披露。おじさんは最後にBのそばに来て何か耳打ちをしていた。それは気が付かなかったが近くのシニョーラたちの熱視線がずっとBに集まっていたようだ。日本人離れしたイケメンBはいつものことかと苦笑しつつ彼にチップを渡した。
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ブランディ
店を出てフニコラーレ・チェントラーレ線のケーブルカーで山頂へ。サンテルモ城へ歩く道すがら、同じ方向に向かうイタリア人男性と一緒になり歩きながら話しをする。「日本人かい? サンテルモ城ならこの道でいいよ。暑い、は『caldo』って言うんだよ」と英語で教えてくれた。「じゃあ今日は『molto caldo』ですね」、「そうだそうだ!」。
この人はカメオ工房経営者で、かつて日本の百貨店と取引をしていたとのこと。せっかくなのでアクセサリーの工房を見学させてもらう。よくわからない分野だが、熟練の職人さんが揃う優れた工房のようだった。そしてサンテルモ城へ。前回は入場せず外観だけで我慢したが今回はしっかり入場料を払ってより素晴らしい眺望を楽しんだ。城壁から眺めるナポリ湾、街並み、ベスビオ火山は格別だった。しかしとにかく暑い!汗が吹き出し、持参したタオルがしっかり重みを増す。一方、この猛暑でもネクタイも外さないエレガントな装いで涼しい顔のBは流石モテる日本男児である。フニコラーレ・モンサント線での下りのケーブルカーの窓から少しだけナポリの街が見えた。
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サン
・テルモ城より
今日の一番の目的地、知る人ぞ知る名店「チレント」に向かう。
実は二日前のPITTI会場でここのオーナーであるウーゴ・チレント氏と田中社長は偶然再会を果たしており、その時に「西村というスタッフが来店するのでよろしく!」と伝えてもらっていた。そのおかげで前回会えなかったウーゴ氏も笑顔で迎えてくれ、厳格なイメージだった店長・ファブリツィオ氏も非常にフレンドリーだった。ここのネクタイはすべてセッテピエゲ。今回はその中でも裏地なしの「スフォデラート」に絞った。夥しい本数の中からのチョイスは極めて難しい作業だったがその甲斐あって買った20本は4時間で完売した。Bは日本で仕込んでいた手土産を渡し、笑顔のチレント氏に見送られてタクシーでナポリ中央駅に向かう。
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チレントにて
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ウーゴチレントと
ところがここでトラブル発生。途中のトンネルから大渋滞に巻き込まれてしまい、動かなくなってしまった。予約していた特急にも乗車することができず仕方なくチケットを買い直して予定より約1時間遅れでローマに戻る。ホテルで待ちくたびれていたAと合流し近場で簡単な夕食を済ませる。

6月15日(土)ローマ/ミラノ
ここまでずっと快晴続きだったが、明け方に少しだけ雨が降った。それでも日が昇るころにはすっかり晴れ上がったということはメンバーに晴れ男がいるのだろうか。
荷物をまとめ、連泊したローマ・UNAホテルを出て9時発のフレッチャロッサでミラノに向かう。ほぼ3時間の乗車。新幹線でいえば名古屋から小倉に移動するイメージか。ミラノ中央駅で下車し、予約している駅至近のミケランジェロ・ホテルに向かう途中で荷物の異常に気付く。トランクの車輪がおかしい。チェックインし部屋で確認するとトランクの4つの車輪のうち一つが破損していた。さほど長期間使用してきたわけではなかったが安物だったのでイタリアの石畳で寿命が早まったのかも知れない。手の施しようがないことを再確認し、簡単に身支度を整えロビーに集合しタクシーを拾う。スカラ座が目の前の広場で降ろしてもらい、ジプシーの攻撃を避けながらヴィットリオ・エマヌエーレ2世のガレリアを抜けてドゥオーモへ。土曜日のせいか観光客がやたら多い。行列ができていたので入場は諦め、近くで昼食をとる。食後Bは市場調査のため残る。
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ミラノ・ドゥオーモ
夕食時刻まではフリーなので最初の計画通りモンテナポレオーネ通り/スピーガ通りに行くことにする。北部だけあって昨日のナポリのような強い暑さは感じられない。それもあってミラノというイタリア最大のビジネス街の規模や距離感を確認するためひとり歩くことにする。
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ミラノの街。スフォルツェスコ城を望む
そもそも今回の出張のメインはフィレンツェのPITTIとロンドンのサヴィル・ロウ視察であり、ビスポークのメッカ、ナポリを除くとそのほかは二の次となる。ミラノについて土曜日の往訪であった。それでもイタリアを代表するテーラー一派「カラチェニ」を実際に体感できる貴重な貴重な機会だと考えていた。
まずはFカラチェニ、事前に調べた紙の地図を頼りに、スマホを見ながらホテルから南西に歩いた。レプブリカ駅を過ぎ、ロシア系なのかMOSCOVAと名付けられた通りを越えたあたりで発見する。フェルディナンド・カラチェニ、彼自身は15年ほど前に亡くなっているが子孫が経営しているようである。商業施設ビルの一室にあるようだがビル全体が休業日であり内部を伺うことも出来なかった。裁ち鋏がデザインされたゴールドの表札を記念撮影する。
続いてAカラチェニ。Aはアウグストの略である。書籍で調べたところ、日本人のスタッフもいる規模の大きなテーラー。Fカラチェニからさほど歩かないサンマルコ教会を左折ししばらく進むと発見できた。ここも休業日である。残念であるが店内の様子も少しは確認できた。商売が繁盛している雰囲気も感じられた。

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F.カラチェニ、まずゲット。
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A.カラチェニ 続いてゲット。
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そして最後にドメーニコ!ドメーニコカラチェニゲット!三代カラチェニ制覇。

 なおもうひとつのDカラチェニ、ドメニコ・カラチェニについては当主のジャンニ・カンパーニャ氏が一昨年に逝去したことを機に門を閉ざしていると聞いていたので場所も調べていなかった。
ブレラ絵画館の近くを通っていきなりアルマーニの総本山パラッツオアルマーニに出くわす。
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パラッツォアルマーニ前で
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ミラネーゼもやっちまったあ。
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こんな素敵なかたもいるのに。

おしゃれの総本山モンテナポレオーネ通りへの到着である。名だたるブランドショップが林立し、国内外からの買い物客で想像以上に賑わっている。客も店員もこれまでのイタリアの各都市とは異なり、洗練された都会的。またミラノ・ファッション・ウィークを目前にして小ぶりなファッションショーなども行われており街全体でファッションを盛り上げていこう、という気概を感じた。

スピーガ通り、サンタンドレアなどこの辺りを散策する。シャツのルイジ・ボレッリに入る。既製品であるがハンド主体のシャツは380ユーロほどだった。日本円で4万円超。セカンドラインでも270ユーロ。日本でもおなじみのサントーニ(靴)やザネラート(バッグ)も入ってみる。セール開催前だったが日本よりは割安。あのアットリーニに入ってみる。欧米の主要都市に店舗展開しているが、このミラノ店は昨年オープンしたばかりとのこと。5,000ユーロ(60万円超)からオーダーできるようだがやはり高額だった。着分はあまり置いておらずバンチは独自に編集した自社版で納期は2か月。一見客の自分に立派なパンフレットを惜しみなく渡してくれた。セナート宮の近辺で偶然にもDカラチェニを見つける。廃墟になり貸し物件のポスターがあちこちに貼られて落書きもされているが、元が立派なだけに痛々しい。
この地区を後にし、スフォルツェスコ城の前を通り地図も確認することなく気まぐれに北上する。途中でテーラーとカフェを併設する店なども見かける。いちおうトランクを扱う店も探したが見つけることはできなかった。多くの飲食店はテラス席を用意していて、どこも混み合っていた。すでに夕食の時刻だ。しばらく歩き、やや不安になりかけた頃にガリバルディ地区に到達。ここで有名なのはセレクトショップの「ディエチ・コルソ・コモ」だが閉店時刻が迫り、また夕食の兼ね合いがあり探すのを断念する。
ホテル周辺に戻り夕食会場を探す。雲行きが怪しい空になりつつあった。イタリアン以外では中華と和食の店を近くで見つけたが、明日の夕方はロンドンで中華料理の予定だったので和食を選び、席を予約する(トリップアドバイザーでの評価も高かった)。
ホテルに戻るとロビーにてPITTIで知り合った日本の商社マンに再会した。このミケランジェロ・ホテルはアパレル業界関係者の利用率が高いようである。われわれ3人は先ほどの和食店に向かう。基本は寿司屋のようで見慣れない姿の寿司を数種類注文した。ミラノで生魚を食べることに抵抗があったようだがおもいのほか新鮮。イタリアンビールを頼もうとしたが日本のものしかなかった。
食事の終わりかけに雷雨になり、一時激しく降ったが店を出る頃には小降りに変わる。ホテルのラウンジでスコッチのハイボールを飲みながら打合せをしながらイタリア最後の夜が過ぎて行った。