当店のスーツのパタンをすべて製作そして監修されているモデリスタの世界的第一人者である柴山登光先生とはお電話ではときどきお話していますが、COVID19勃発があったので今年1月開催の「現代の名工」授賞式以来お会いしていません。ゴールデンウイーク休みが終わってすぐ、柴山先生からメールが有り、いま縫製の課題を改めて研究されているとコラムをご紹介いただきました。先生に御許可をいただきここに転載いたします。
巣ごもり作品 柴山登光
2019年12月8日中国・武漢市で原因不明の肺炎が発生。12月31日に世界保健機関(WHO)に初めて「新型コロナウエルス」が報告され、2020年2月11日「COVID-19」と名付けられた。日本では1月5日クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染者10人が確認されて、事の重大さが伝わってきた。中国に始まり2月に入るとイタリアに広がり、瞬く間にヨーロッパ、アメリカに広がった。3月に入ると世界中に拡大し、日本では3月24日オリンピックが1年延期の決定となった。
とたんに東京は感染拡大が続き4月に入ると更に感染が広がった。4月7日から緊急事態宣言が発出され、5月の連休明けまで不要不急の外出自粛。医療現場の崩壊を起こさないように更に1ヶ月延期となってしまった。
長い外出自粛で巣ごもり状態が続いている。
こんな時は普段じっくり出来なかった事をしようと今年になってスーツ2着を縫い、クローゼットに眠っていたスーツをリメイクした。
そしてオーダーサロン タナカから提供して頂いたジャケット地(カシミア70%、シルク30%)があったので、幾つかの課題をもって自分のジャケットを縫い上げた。
1.格子柄をどう出すのが効果的か。
太い柄を背の裾に入れて間延び感を防ぐ。上襟が背のヨコ柄と同じピッチになるように配置。また上襟にヨコ地の目を通し、クセを取って被せ衿にする。ラペル上部のヨコ柄が身頃・袖へと繋がるようにする。
2.柔らかい毛芯で前肩構造が維持出来るか。
フロントがスレーキに切替えられた柔らかい毛芯地を使用。袖付けは身頃高ステッチでマニカマッピーナ仕様。
芯据えではネックを2cm肩側に倒して前肩スペースを作り、アーム綴じをする。効果が出ているかの目安は腕を組んで背が盛り上がること無く、肩線にねじれたシワが出ていなければ目的達成となる。
右肩1cm下りのため左右の柄の出方は異なるのと、着ると丸みがあるので袖付け側の身頃タテ柄はネックに向かって曲がって見えるが、平らにすると直線を維持している。こうして幾つかの課題をじっくり確認出来るのも巣ごもりの副産物かも知れません
常に学ぶ師の姿に感動します。
もう全ての技術を習得して、頭に入っているばかりと思っていましたが、こうやってまた一から技術を確認、更に新しい技術を加え前進していくところに柴山先生のすばらしさがあります。縫製工場に入ってまた、その技術を熱く伝えていくのです。(筆田中)