ちょっと専門的なお話になる。
エルメネジルドゼニア社から来た秋冬素材の梱包をときながら中を確認していたら書類がでてきた。それは反物ごとに製造後に計測したデータのレポートだった。さすがに世界の高級品市場で確固たる地位を築いているエルメネジルドゼニアだけあってこのような詳細なデータをクライアントに提示するということでまさに近頃言われるアカウンタビリティの遵守である。

今回エルメネジルドゼニア社には当店で最も定評のあるエレクタをブラック無地、チャコールグレー無地、ダークブルー無地の3反発注したがこのレポートを読んでいるととても興味あることが分かった。
 

1.ブラック無地
ネット仕上がり長/50.2m
ネット仕上がり重量/18.1kg
1メーターあたり重量 358g
巾 154cm

2.チャコールグレー無地
品質クラス/最上級
ネット仕上がり長/49.9m
ネット仕上がり重量/16.5kg
1メーターあたり重量 329g
巾 154cm

3.ダークブルー無地
品質クラス/最上級
ネット仕上がり長/51m
ネット仕上がり重量/18kg
1メーターあたり重量 347g
巾 150cm

この3種は全く同じ品質ゼニアエレクタの色違いで、サンプルには1m/340gと書いてあるが実際の出来上がりにはこのようにバラツキがある。どうしてこういう違いがあるのか知りたかったので尾張一宮で盛業中の毛織物会社社長を訪ね聞いてみた。社長がおっしゃるには出来上がりで目付が変わる理由は糸の段階の重量や使用量など設計時には同じはずだが織り上げてから整理工程=フィニッシング(仕上げ)段階で変わってくるとのこと。織り上がってからすぐの生地、通称キバタはバリバリでまるで帆布のようだ。それをもみほぐしたり、洗ったり、熱を加えたり延ばしたりして柔らかい風合いを表現していく。スッピンの女性がお化粧を施して晴れ舞台に上がり銀幕の星としてスポットライトを浴びる。それに似た過程が整理工程フィニッシングとなる。いわば服地にとって過酷なプロセスを経ると重さや横巾が変化するというわけだ。
上記の3点の中ではチャコールグレーは原毛の段階で染めるトップ染め、黒とダークブルーは白い生地ができてから染める後染めとなっている。社長は後染めの方が目付が付く(重くなる)傾向にあるとおっしゃっていた。どんどん機械生産でできてくると思われる紳士服地だがもとはオーストラリアで育てている羊の毛を何十かの工程を経て服地という製品に仕上がる。
このレポートからモノ作りの奥深さが見える気がした。
DSCN8714
エルメネジルドゼニア社の反物に添付されるリポート 
PICT0286
これが織り上がったばかりの服地。キバタと言われる状態で手触りバリバリでざらざら。これはトロフェオだがご存知のつややかで滑らかな表面ではなくマットな表面の状態がこの写真でもわかる。2005年ゼニア工場にて
PICT0303
それをこういった大型機械を何台も通す事によってふんわりした風合いを出す。この工程が「整理」=フィニッシング。工場ごとの秘伝のノウハウがある。 2005年ゼニア工場にて。