前のブログで今回、当店のオーダーで使用するパターンに日本最高のモデリスタであり日本のアットリーニと言われる柴山登光先生が製作した新しいパターンを追加するということを書いた。新しいパターンは旧来のパターンの修正、改良ではなく「完成形」をめざして、一から線をひきなおしたパターンである。とはいえクラシックスーツという長い伝統により育てられた形状はそう変わるものではない。柴山先生が毎年通っていらしゃるフィレンツェでおこなわれるメンズのリアルクローズの祭典、ピッティイマジネウォモで表現されているクラシックスーツは毎年コロコロ変わる訳ではなく10年の年月を経過してもそんな変わるものではない。しかし変化しなくてもいいわけではないのでいま10年間で柴山登光先生がみずから研究を深められた部分、縫製工場の技術が高まった部分を盛り込み、より高い理想を目指して今回新しいパターンを作り上げた。最も重視した部分は上えり、肩周りの構造で、ジャケットのえりが肩から首にかけて吸い付くようにのぼっていき胸がきれいに収納されるパターンを目指した。
のぼりと言われる部分
首にラインにしたがって上えりがあたかも登るように沿って行くさまを洋服用語では「のぼり」という。富士山のシルエットのように肩から首に掛けてのラインが形成される。ここが一番肝心なところで洋服屋の腕の見せ所ともいえる。新しいパターンはこの美しさを特に追求した。美しさだけではなく、すっと高く登るエリはそこでジャケットの重量を支えるため、着心地も良くなる。
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肩から首にかけて美しく上がって行く形状。
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首に吸い付くように沿うのが理想

上えりの形状
上えりのとんがりがいままでよりも鋭角になった。奈良若草山が旧来のパターンだったら新しいパターンは富士山だとも言える。これによりゴージラインが高く感じ、りりしい姿になった。また上えりを継がずに一枚で仕上げる「一枚エリ」になった。(尚、これは使用する服地の伸縮性により今後も継ぐ場合もある。)上えりの形状の見直しだけはなく縫製方法も見直し、さらに上えりの芯をアイリッシュリネン100%の保形性能の高い素材に変えた。
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黒い線が旧パターン、赤い線が新パターン
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新パターン 上えりが一枚で出来ている。
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旧パターン 上エリが継いである。これはディテールの変化という訳ではない。
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上えり芯も、形を整えるのに重要な要素となる。これもアイリッシュリネン100%に変更した。
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縫製技術も新しいパターンに合うように進化した。

アームホールの大きさ
メンズ雑誌などではアームホールを小さくすると着心地がよくなるとよく書いてある。アームホールが小さい服はナポリの洋服の特徴でもありそれは間違いない事であるがフロントやバックのパーツ、イセの量などに関連し、単純に小さくすればよいものではないことはナポリ出身のモデリスタの王、アットリーニも言っている。洋服造りの中でもノウハウが詰まったアームホールの形状であるが今回はすべてのパーツを見直す事によっていままで8mmほどアームホールの周囲が小さくなった。
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アームホールというの袖と身頃のパーツをつなぐと初めて出来るライン

そでのフォルム
アームホールが小さくなったのに従って、袖は細く見えるようになった。特に二の腕と言われる腕の後ろの部分を細くしてスッキリ見えるようになった。
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左が旧パターン 右が新パターン
フロントのカッタウェイ
いい洋服は丸みを感じるものだ。それをめざし、いままでより丸く大きくカットされている。
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より丸みを増したフロントのカッタウェイ

基本となる上着丈
想定している上着丈をいままでより2.5cm短めに設定している。これはサイジングに関わるが、しかし想定する上着丈が短くなる事でたとえば脇ポケットや胸ポケットの位置の設定が変わる。これはオーダーされたお客様には極めて判りずらいかもしれない。とはいえこれを見直す事により確実にバランス感は向上する。
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パーツの配置がさらにバランスよくなった。 

なお今回、新しくなったのは毛芯、本バスで仕立てられる通常のスーツ、ジャケットに使われる上着のパターンであり
、パンツについては昨年の3月にローライズを追加したこともありいままでと変わりません。 アンコンジャケットも現在のところいままでと変わりません。