洋服屋になって30年が経過する。その間3万着のスーツの採寸、サイジングをひとりでやってきた。

わたしは1981年、大学をでて東京根津の伊丹裁断研究所で伊丹嘉之先生から採寸、裁断を習った後、名古屋のテーラーさんに教えてもらったり当時東大阪西石切にあったランクロージングに泊まり込んで採寸、洋服作りを勉強した。そしてそれからすぐ店で実戦開始となりオーダーサロンを始めた。いまでこそベテランだが、そのころはド素人。最初のお客様は友人管啓次郎のお父様。もう5年以上前にお亡くなりになったがほんとうに慈悲あふれる方だった。ゴルフもよくいっしょにいった。戦争の話もしていただいた。「タナカくん戦争は絶対いかん。」実体験からでた言葉はいまでも心の底に残っている。タナカくんが洋服屋を始めるならいっちょうつくってやるか。そんな優しい心で注文してくれたのだ。そんな機会をくれたお父様にいまでもほんとうに心から感謝している。服地はドーメルのトニックのグレーに決め大治のお宅にうかがって流れる汗をふきふき採寸した。で、できあがった第一作は当然不具合もある。ほかのテーラーさんに教えてもらい手を尽くして直して納品した。そんな第一作からぼくの洋服屋人生はじまった。
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コンランショップ製 メジャーをかたどった灰皿

採寸とは身体の寸法を測ることでありメジャーリングともいう。サイジングとは計った寸法をもとにどのような大きさの洋服にするか決めることである。同じような意味で使うがじつは意味は大きくことなるのだ。たとえば
同じ客で縫製工場が同一で仕立てるとする。

  • Aテーラーが計る。バスト94 ウエスト79 ヒップ96
  • B テーラーが計る。バスト94 ウエスト79 ヒップ96
この二人のテーラーが同じ寸法だということは採寸は正確にできたということ。 

Aテーラーは安全に窮屈さの無いスーツを作り Bテーラーはスタイル優先にアンダーサイズぎみに作ったとするとまったくどちらも「良い服」をめざしてつくったのに仕立て上がってお客様に納品するスーツはまったく違う服になる。これがサイジング、つまり寸法設定である。メンズスーツの基本デザインはほとんど変わらない。だからサイジングがメンズスーツにおける「デザイン」であるともいえる。テーラーのサイジングの能力がじつはデザイン能力なのだ。

これからしばらくメンズスーツのサイジングについて細かく書いていきたい。

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ドーメル社165周年記念メジャー